テレビ解説者の木村隆志が、今週注目した"贔屓"のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第10回は7日に放送された『今夜くらべてみました』(日本テレビ系、毎週水曜21:00~)をピックアップする。
同番組は、「ある共通点を持ったゲスト3名をあらゆる角度から比較する」トークバラエティ。すでに6年弱の歴史を持つ番組だが、深夜からゴールデンタイムに昇格して、3月でちょうど1年になる。昇格後はメジャー路線のキャスティングが目立ち、「深夜時代の"先物買い感"が薄れた」という声もあるが、一方で笑いの量は確実に増え、新たなファン層を開拓している。いったい何が強みとなっているのか。
文字量はニコニコ動画と同等レベル
今回のテーマは「トリオ THE 姉御肌な女」で、板谷由夏、大島美幸、土屋アンナが登場。冒頭のあおりVTRで、3人の姉御肌っぷりをこれでもか、というほどたたみかけるのが、いかにもこの番組らしい。そう、『今夜くらべてみました』は、「スタートからフルパワーで押し切ってしまおう」というハイスパート型なのだ。
そんな力強いコンセプトに敬意を表して、当コラムも今回はいきなり核心にふれるとしよう。当番組の肝は、ノンストップで乱れ撃ちされる変化自在のテロップ。これに尽きる。 白、黒、赤、青、黄、紫、金、ピンク……色とりどりで、3色同時や2段組は当たり前。フォントや配置も多種多様で、縁取り、光沢、影、白抜き、炎、吹き出し、写真、イラスト付きなど、トーク内容に合わせて、ひと言ずつ変えている。
質だけでなく、量も他番組の追随を許さない。「トークの8~9割をテロップにしている」「放送時間の8~9割でテロップが出ている」と言っても過言ではなく、スタッフたちは日々精魂込めてテロップを作っているのだ。
そもそも当番組は、画面の左上に「姉御肌な女」というテーマ、最下段に「大島美幸38歳 板谷由夏42歳 土屋アンナ33歳」という名前+年齢をずっと表示している。さらに、右上にも「彼の浮気相手と直接対決」「夫 鈴木おさむにイラッ!」「板谷 白塗りくっきーと初対面」など現在のトーク内容も表示。つまり、画面中が文字だらけであり、まるでニコニコ動画を見ているようでもある。
しかし、意外なほどトゥーマッチ感はない。これほど文字を詰め込んでいるにも関わらず、ほとんどストレスなく見られるのは、まさに職人技。深夜時代と比べても、間違いなく進歩している。
バレーボールのようなトークセッション
同様に、カメラのスイッチングも激しく、音響も小刻みなのだが、それらはすべてノンストップトークを成立させるためのテクニック。当番組は、ずっとボールを投げ合うキャッチボールのような感覚でトークを続けている。ボールを持ったまま投げない(1人でしゃべり続ける)というシーンは、ほぼ見られないのだ。
さらに、「ゲストの3人を平気で置きざりにする」のも当番組の持ち味。MCの後藤輝基、徳井義実、指原莉乃は、頻繁にトークを振り合い、ちゅうちょなく話しはじめる。MC3人+ゲスト3人=6人でのキャッチボール……というより、テンポの早さでは、ボールをキャッチせずダイレクトで弾き続けるバレーボールに近いかもしれない。
すると必然的に笑いの手数は多くなり、視聴者を繰り返し笑顔にできるほか、毎分視聴率も上がるなど、いいこと尽くめ。ハイテンポなトークはネットとの相性もよく、その意味では最先端のトークバラエティと言えるだろう。
この日は、「土屋がモデルKやJと殴り合った」という報道の真相、大島が指原と土屋の素足を嗅いで「クサイ!」と断定、「板谷お気に入り芸人」の野性爆弾・くっきーが白塗りで登場して板谷のモノマネを披露、ブラジリアンワックスで大島が下半身の毛を、土屋と板谷が鼻毛を抜くなど、いつも以上に笑いどころが多かった。
どれも女性タレントにとっては過激に見えるが、「リスクや責任を負わされている」というムードは不思議なほど感じない。過激な発言も、どこか無責任で、から騒ぎ的な番組のムードで中和されてしまうからだ。むしろ女性タレントにとっては、笑いが取りやすい上に、安心して自分をさらけ出せる番組なのではないか。
私は前番組の『芸能★BANG+』に一度だけ出演したが、当時から後藤、徳井、SHELLY(産休中)のMCにはスキがなかった。そこに指原による若手&女性目線の毒が加わり、パワーアップ。台本や演出意図を読み取る能力は業界屈指のメンバーだけに、ムダなトークはほとんどなく、しゃべった分だけ撮れ高になっていく。
おそらくカットされたトークも爆笑必至だろう。季節に一度、未公開トークを放送したら、けっこうな数字を稼いでしまう気がする。
来週の贔屓は…芸人が輝き、苦しむ笑いの原点『NEO決戦バラエティ キングちゃん』
来週放送の番組からピックアップする"贔屓"は、12日に放送される『NEO決戦バラエティキングちゃん』(テレビ東京系24:12~)。同番組は、「芸人たちが芸能界で生き抜くスキルをオリジナル競技で競い、新たな王者"キングちゃん"を生み出そう」という自由度の高いバラエティ。
次回放送は、「ささやいて面白くしろ! 第4回エキストラプロデュース王」。千鳥・大悟と銀シャリ・橋本直が、三四郎・相田周二、バイキング・西村瑞樹、マテンロウ・アントニー、平嶋夏海らを遠隔操作で操り、「何も知らないターゲットをどれだけ笑わせられるか」を競い合う。大悟と橋本がどんなムチャ振りを繰り出すのか? 鉄板の人気企画だけに、ぜひこのタイミングでチェックしておきたい。
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。