スマホやタブレット、PCでテレビを観られるとしたら、どのデバイスを選ぶか――。日本テレビと読売テレビ、中京テレビが3社共同で始めた取り組みの行方を、多くのテレビマンが注視している。ビジネスとして成立できる可能性はあるのか、テレビ回帰にどうつなげていけるかと、希望的にその結果を分析しようとする人もいるだろう。しかし、大多数が抱く思いが不安でしかないのも、また事実であり現実なのだ。

日本テレビ本社=東京・汐留

日テレ系ライブ配信」と、まあ日テレらしい分かりやすい名前のネット同時配信は、先週土曜日からスタートした。今月から12月までの3カ月間で、実験的にプライムタイムを中心に32番組を無料でライブ配信するというものだ。民放公式テレビポータル「TVer」での配信で、スマホやPCで地上波と同時に視聴できるので(同時とは言え、我が家では地上波と30秒くらいのタイムラグがあった)、日テレは、「テレビ番組の新しい楽しみ方を提供するためのトライアル」としている。配信する番組一覧を眺めると、月曜20時のおなじみ『世界まる見え! テレビ特捜部』や金曜19時『クイズ! あなたは小学5年生より賢いの?』、『金曜ロードSHOW!』が無いことに気づく。"プライムタイム中心"と言いながら、看板ともいえる番組がないのは何故か。ここに同時配信の難しさが表れている。

テレビの同時配信で一番の障壁とされるのは、権利処理だ。地上波であれば局ごとに権利団体と包括契約なりを結び、音楽や映像などを放送している。今回プラットフォームを「TVer」にすることで、音楽の問題はクリアー。そして、キー局が今年1月下旬に1週間だけ行った夕方ワイド番組の同時配信の舞台も「TVer」だったので、かなりハードルは低く、配信できない番組なんて無いのではないかと思われるかもしれない。しかし、映像素材となると、JASRACのような著作権を管理する業界団体ではなく、権利者と個別に契約を結ぶことが多くなり、結果、使用条件がかなり細かく規定されることになる。

『クイズ! あなたは小学5年生より賢いの?』が配信されない理由

『世界まる見え! テレビ特捜部』は、海外のテレビ局やプロダクションが制作した映像を番組内で放送する。おそらく『まる見え!』での映像契約は、地上波での1回だけの放送を前提としたものが多いのだろう。ここで「ネット配信もしたいんですが…」と切り出したらどうなるだろう。権利者は地上波にプラスして配信での使用料を要求するだろうし、何らかの理由をつけて使用料が高額になる可能性だってある。『金曜ロードSHOW!』で放送される映画に至っては、地上波放送の権利を日テレが有していたとしても、ネット配信となると放送局以外の、全く別のプラットフォーマーが有している場合だって想定される。地上波の放送を、水道の蛇口をひねるように簡単にネットで流せるわけではないのだ。

天下のNHKでも状況は変わらない。今年4月から始まった同時配信「NHKプラス」を観ていると、ニュースの中であっても「この映像は配信しておりません」と画面に映し出されることが度々ある。それは日本人メジャーリーガーの活躍であったり、大坂なおみ選手の快挙であったりと主に海外スポーツだが、映像の配信使用の許諾が下りなかったということなのだ。(ちなみにテレビ業界では、映像を流さず、「配信しておりません」といったスーパーで画面を埋めることを"フタをする"と表現している。文字通り、映像にフタをしているからだ)

では、『クイズ! あなたは小学5年生より賢いの?』はどうして配信されないのか? 実はこの部分に、テレビマンの大多数が抱く不安のワケがある。それはずばり地上波との"競合"という概念だ。全国で同じ番組が流されている時間帯で、同じ日テレ系列で何の番組と競合するのかと思われるかもしれないが、関西や東海地方に住んだことのある人ならご存知だろう。この金曜19時台は読売テレビ、中京テレビともに独自編成をしていて、日テレの番組を放送していないのだ。前者は『大阪ほんわかテレビ』、後者は『PS純金』という番組で、首都圏の視聴者にとっては「?」となってしまうが、いずれも四半世紀以上続く人気番組(『PS』はリニューアルを繰り返してきたが)。それらの番組が放送されている中で日テレ系ライブ配信が『クイズ!~』を配信していたら、読売テレビも中京テレビも自社番組の視聴者が減るかもしれない、系列の中で競合関係になると猛抗議するだろう。そういった意味で日テレは"配慮"したということになる。

キー局が同時配信を始めたら、地方ローカル局が潰れるのではないかという懸念は、まさにそこにある。クオリティーが高いキー局の番組を四六時中観ていたい、地元で放送されていないテレビ東京の番組が観たい等、地元の放送がスルーされてしまう恐れが大いにあるためだ。

止められない同時配信の流れに、ローカル局は座して死を待つのみなのか。否、私は声を大にしてそんなことはないと言いたい。本当に必要な情報は何か、本当に見たいものは何かと問い直せば、ローカルの価値は再発見されるはずである。"ローカル局の未来"については、いずれこのコラムでお伝えしたい。