すでにエンドロールの真っただ中にいるかもしれないテレビ。しかし、悲観するのはまだ早い。私たちにはテレビ東京があると、筆者は前回書いた。では、そのテレ東には一体何があるのか。各局に比べ話題性に乏しいと見られがちでスルーしようと思ってもいたが、違う目線でそのタイムテーブルを眺めると、勝算のようなものが透けて見えてくるのだ。
『ポケットモンスター』を19時台に移動させたテレビ東京
テレ東の全日帯(6時から24時まで)の改編率は11.3%。フジテレビに次ぐ形で、テレビ朝日よりもわずかに高い。しかし、これがゴールデン帯(19時から22時)になると28.2%と民放随一のものとなる。ドラマはクール(3カ月)ごとにほぼ変わるので脇に置いておいて、注目すべきは『家、ついて行ってイイですか?』の拡大だ。
ターミナル駅で終電を逃した人に対し、タクシー代を支払う代わりに「家、ついて行ってイイですか?」とお願いして、自宅を訪ねてその人の生きざま=人生ドラマをたどるバラエティー。銭湯代を支払う代わりとか、コンビニの代金を支払う代わりにとか、色んな派生形はあるが、皆さんも一度は目にしたことがあるだろう。2014年から続き、王者・日本テレビとも渡り合えるこの人気番組が、何と10月から放送時間を1時間拡大。コロナ禍で取材自体が難しくなっている現在だが、さすがに長年続いていることもあって"あの人は今"的な展開も可能となり、当面の間は2時間番組を維持できるのではないだろうか。
そして、テレ東改編の目玉はピカチュウなのである。(笑)をつけたくなるかもしれないが、大真面目に金曜日19時に『ポケットモンスター』を移動させたのだ(正確に言えば18時55分~)。金曜19時台と言えばテレビ朝日が『ドラえもん』と『クレヨンしんちゃん』を放送していたが、視聴率低下などもあって撤退。民放のアニメがゴールデン帯から消えた歴史的な瞬間だったが、そのドラ無き枠にポケモンがGOしちゃったのである。
この判断の裏側には何があるのか。筆者は前に当コラムで、「金曜夜のテレビ視聴の動きが大きく変わっている」と書いた。その大きな動きが、ポケモンのゴールデン帯復活に影響しているのではないかとみている。
連綿と続き、流行り廃れも日常茶飯事のテレビの世界で、その大きな動きの発端はこれだと言い切るのは難しいことだが、それはやはり去年のテレ朝によるゴールデン帯改革だったのではないだろうか。先述したアニメ撤退に加え、その代わりに『ザワつく! 金曜日』の編成。20時台には『マツコ&有吉 かりそめ天国』を据えてバラエティー2段積み。そして33年間にわたり金曜20時で定着していた『ミュージックステーション』をまさかの枠移動で21時台に。字面にすると簡単そうに見えるが、これは並大抵の改編ではない。スポンサーへの説明を想像するだけでも頭がクラクラしてしまうほどの"大手術"。アニメもMステも定着していたものを崩すということだから、編成部の首脳陣には相当なプレッシャーがあっただろう。しかし、その甲斐もあってゴールデン帯の数字が改善した。
となると、一気にこの金曜のゴールデン帯の勢力図に変化が出てくる。TBS19時台『爆報!THEフライデー』の"あの人は今"的な内容は個人的には好きだが、そんな企画では若い視聴者はついてこない。でも、ここで踏ん張らないと、20時台、21時台とつながらないし、金曜ドラマが『金曜ロードSHOW!』にいいようにやられてしまう可能性も出てくる。オカルト路線に舵を切っているが、続けるのには結構ツラいものがある。TBSは来年春の改編を待たずに、何らかのテコ入れをするかもしれない。
混沌とする金曜19時台
さて、話は戻ってポケモンのゴールデン帯進出についてだが、おそらくテレ東としては、この混沌とする金曜19時台にアニメを欲している層がまだいるとにらんで、しかもその層が女性視聴者を呼びこむとみているのではないだろうか。事実、アニメは子どもしか観ないと思われがちだが、F1と呼ばれる20歳~34歳の女性、F2と呼ばれる35歳~49歳の視聴も一部で確認できている。CMを流すクライアントがターゲットとする、家計を握り、購買力のある層と言える。
どの番組をどの層が観ているかが全国で分かるようになったのは、今年の春からだ。東京や関西など都市圏は先んじてその視聴率調査が行われていたが、それが今年の4月から全国でスタート。これまでの指標であった世帯視聴率は〇軒中×軒でどのチャンネルが映し出されているかを示す指標だったが、全国で始まった"個人視聴率"調査では、家の中の誰が観ているか、実際にどれだけの人数が観て、その性別や年齢まで分かってしまうものだ。具体的にどの層に響いているか分かるということは、CMのセールス的にもやりやすい。ただ単純に「観られていない」という結果が出るのは困るが、個人視聴率の数字によって、クライアントの狙いと番組をマッチングさせることは容易になってくるのだ。
よって、テレ東編成の思惑は奏功しそうに思える。ただ注意しておきたいのは、『ポケットモンスター』が意図するような良い結果を生んだとしても、その後の流れにどんな影響を及ぼすかというところ。19時25分からの『デカ盛りハンター!』、そして20時からは全く視聴者層が違うドラマ『記憶捜査2』。ジェットコースターのような流れで、うまく数字を上昇させることができるだろうか。
熾烈を極める金曜ゴールデン帯の視聴率戦争。しかし、各局がしのぎを削るのは相手がはっきりと見えているタイムテーブルの上だけではない。広告収入が減り続けている現状下で、経費節減、コストカットという内なる戦いも同時進行的に行われているのだ。とにかく効率よく稼がなければならない。その舞台裏は次回以降で詳しくお伝えしたい。