アノ人関連の速報を打つのならこの局が一番速いだろうと思い、視線の端でその画面をモニタしていたら、小さな文字が躍った。「安倍首相 辞任の意向固める」もう表明した後なのだから好き勝手なことが言えるんだろ? と思われてしまいそうだが、首相"辞任"は想定の範囲内だった。健康問題の浮上の仕方もおかしなものであったが、そのタイミングで訪れる「憲政史上最長」という勲章。筆者はさすがにその勲章を手にした週ではなく、9月頭と予想していたが、そんな最中に設定されたのが金曜日の記者会見だった。

色んなものに与える影響を最小限に留めるためには、なんて言ったって金曜日午後がベストだ。シャワーのようにニュースが流され続ける平日ではなく、やはり週末。土日を過ぎればトーンが変わる。マーケットへの影響も少ない(今回午後2時すぎに明るみになったのは、反発で少し株価が戻すことも期待していた?)。そういうわけで、官邸に深いパイプを持つ女性記者を擁するNHKをずっとウォッチしていた。結果、やはり一番乗りだった。午後2時7分、速報は打たれたのだ。

こういう時の局内はどんな感じなのか。おそらく横の動きをチェックしているデスクか誰かが異変に気付き、「おい、NHK打ってるぞ!」と叫ぶ。もちろん、記者クラブでもチェックしているだろうし、タイミングからみると、NHKとフジテレビとテレビ朝日はほぼ同着だったかもしれない。1、2分の違いでの速報だから、与党の関係筋にすぐに裏取りできたとみられる。自民党本部に張っていたのだろう。いや、もちろん各社張っていたはずだ。一体どこで差が出てしまったのだろうか。

速報や独自報道など、取材のアレコレについてはいずれ詳しく書くとして、このニュースを各局がどう扱ったか、皆さんはご存知だろうか。NHKは特殊なので一旦脇に置いといて、民放各局は昼から夕方にかけて、生放送の番組を構えている。いわゆる情報ワイドと呼ばれるものだが、実は東京での制作はフジテレビ『直撃LIVEグッディ!』のみ。『情報ライブ ミヤネ屋』は大阪の読売テレビの制作。『ゴゴスマ』は名古屋のCBCである。そのため、上記の系列では生放送の中で"辞任"ニュースを大きく報じることができた。『ミヤネ屋』と『ゴゴスマ』に若干NHKからのタイムラグを感じたのは、裏取り地=東京との距離や、キー局との連携に関係しているのかもしれない。

「マスターカット」とは?

では、生放送をしていない局はどう対応したのか。テレビ朝日はドラマの再放送中だったが、報道スタジオを開き、「マスターカット」を行った。マスターカットとは番組を途中だろうが、とにかくぶった切って(=カットして)ニュースを放送することだが、テロップのみの速報とは別に、臨時ニュースを放送した。では、テレビ東京は? 第一報は速かったものの、クリント・イーストウッド主演の映画が流れ続けていた。

こういう判断にも編成マンは携わる。これまでのこの連載では、視聴率とにらめっこして、番組の方針・内容をスタッフと作り上げるという仕事について触れてきたが、瞬時に放送をどうするか、番組をやめてでもニュースを放送するか、CMをどうするかの判断を求められるのが編成マンなのだ(災害ニュースについては編成判断を待たずに放送する場合もある)。そして、これが瞬時の判断で終わるわけがない。その日の夕方、夜のニュース番組などを拡大編成するかどうするか、とにかくキリがないくらいの判断を1つずつ片付けていかなければならない。テレビはただの現在に過ぎないが、判断することは多い。

そういった中で、首相辞任表明のニュースのあおりを一番食ってしまった形となったのは、『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日)かもしれない。首相が辞任表明したし、田原総一朗さんが与野党議員に舌鋒鋭く切り込んでくれるだろうと期待して拝見した。しかも、驚くべきことに、今夜が記念すべき400回! 1年に12回しか放送できないことを考えても、33年以上続けなければ達成できない放送回数。そんなメモリアルな回だったのだが、田原さんの思い出話の途中でVTRが始まるハプニングから始まったと思ったら、ニュースの拡大編成の影響でまさかの20分短縮……。メモリアルな回での20分短縮は、短縮を判断した編成マン、番組担当の編成マン、プロデューサーをはじめスタッフ、出演者も忸怩たる思いだっただろう。しかし、大きな話題となっていないのは、田原さんが冒頭の話で触れた、「夜中だから偉い人は番組観ていないだろう。だからタブーに切り込んだ」という内容そのままの通りなのかもしれない。なんだかなぁ。