「こんな不安定な職業の奴より、もっとちゃんとした上場企業のテレビ局とかに勤めている人がいいですよ」
「いやいや、テレビ局こそ数年後には消滅してますよ」
「お前らユーチューバーは住宅ローン組めねえだろう!」
と、まあ忖度なしに極端な意見の応酬が続いたのはドラマ『ユーチューバーに娘はやらん!』の初回。佐々木希さん主演ということで気になってしまい、一度見て虜になったあなたは業界人か無類のテレビ好き、ドラマ好きではないだろうか。
分かる人しか分からないようなマニアックなネタと、伏線を回収しているのかすら定かではないくらいスピーディすぎる展開。そしてそこに重なるユーチューブでありがちなテロップ&編集は、従来のドラマを観ようとしていた視聴者の期待を軽やかに裏切っていく。
ドラマ自体は結婚式当日に新郎に逃げられた主人公の女性・千紗が、その場に居合わせたテレビ局員とユーチューバーという対極的な2人の男性の間で恋に揺れるラブコメディ。この説明だけ聞くとまっとうな内容とも思えるのだが、企画・原作を手掛けているのが秋元康氏ということもあって、全編に通底するのは"遊び"以外の何物でもない。
例えば音楽。戸塚純貴さん演じるユーチューバーのタックタックが猛スピードで疾走するシーンに合わせた曲は、T-SQUAREの「TRUTH」だ。分かる人なら分かる……というか、40代以上ならF-1だと脊髄反射してしまうことだろう。
"遊び"は容赦なく豪華な出演陣にも襲い掛かる。佐々木さん演じる主人公・千紗の父親役を遠藤憲一さん、母親役は斉藤由貴さんが演じるが、扱いがいい意味で酷い。遠藤さんは毎週変なモノマネを披露していくが、ビートたけしになりきっての「ダンカン、馬鹿やろう」や小泉純一郎元首相の名言、ドラマ『プライド』出演時の木村拓哉さんなど、地味に若い人に届きにくいレベルなのだ。そして、斉藤さんはことごとく抜けていて、ツッコミどころ満載のボケを連発する。
主人公ももちろん例外ではない。佐々木さんがお立ち台ギャルやサラリーマン、名探偵コナンに扮したり、挙句の果てに滝川クリステルさんのあの"おもてなし"のマネをするという、まったくドラマの本筋と関係ないシーンのオンパレードなのだ。
いかにもなセリフもあながち脚色ではない
そんな中で皆さんに特に注目してほしいのは、金子ノブアキさん演じるテレビ局員・榎本信だ。言うことなすこと、THE業界人。その振る舞いには、地方とは言えテレビ局で働く筆者としては、ああ、しようがないよなと頷いてしまうことが多々ある。「今でもそんなに指鳴らす人いる?」と思われるかもしれないが、もうこれはクセみたいなもので、親指と中指を合わせてパチンと鳴らす局員は確かに存在する。絶滅危惧種ではなくて、準絶滅危惧種くらいの発生率・遭遇率と言えよう。
また、劇中で榎本が口にするセリフもあながち脚色ではない。例えば千紗と高級レストランで食事をするシーン。榎本は若干恥ずかしがりながらも、こう話す…「実は昔先輩に言われたことがあって。いい服を着て、いい物を食べないといいクリエイターにはなれないって」そう、こういうことを素面で平然と言ってのける年配のテレビ局員がいるのもまごうことなき事実。中にいる人間としては、バブルの残り香漂う50代の局員に多い印象だ。
"遊び"が徹底されているのは、本編だけにとどまらない。2月14日の放送は"特別編"と題し、タックタックがユーチューブでドラマの見どころなどを紹介していくという演出だった。佐々木さんやスタッフがコロナに感染し、撮影中断を余儀なくされたことによる苦肉の策だと思うが、単なる総集編に堕していないのだ。しっかりと作品として成立している。笑えてあっという間に時が過ぎてしまった。もっと言えば、筆者がこのコラムで書いていることもすべて網羅されていた(笑)。
とにもかくにも『ユーチューバーに娘はやらん!』は本気で"遊び"をやっている。しかも、それでいてしっかりとラブコメ。だからこそ面白い。とにかく何も考えずに、ちょっとしたことに「?」と思わずに、楽しんで観られるドラマだ。そう、これはまさに「考えるな、感じろ」ということ。
今クールのドラマで、台風の目と言っても過言ではない。ドラマの型を壊しまくっているし、業界視聴率はとにかく高いだろう。個人的には『電車男』の再来のようにも感じる。ちりばめられる"遊び"の中に、テレビ(ドラマ)はこういうのもアリなんだよという秋元氏なりの高らかな宣言が込められた、テレビルネサンス的な作品を是非ご覧いただきたい。