コロナ禍による売り上げ減少は、当たり前のことだが、飲食業界に限った話ではない。放送業界もその直撃を受けている。「巣ごもり需要でテレビを観る人が増え、視聴率が上がったのだから"ウハウハ"じゃないの?」と思う方もいらっしゃるだろうが、このほど出揃った在京民放5社の2020年9月中間決算を眺めれば、放送業界も安泰ではないことが分かるだろう。

結果から言えば、テレビ東京ホールディングス以外の4社が減益か赤字。赤字に転落したのは、民放のトップカンパニーを自認する日本テレビホールディングスという有様だ。何故このような状態かと言うと、主な理由は広告収入が大幅に減ったためである。

テレビの広告と言えばCMだが、そのCMでも「タイムCM」と呼ばれる番組提供をともなうもの(「この番組はご覧のスポンサーの提供でお送りします」と紹介され、30秒CMを流すような形式)ではなく、番組に関係なく途中で挿入される「スポットCM」の落ち込みが激しい。このスポットCMの売り上げが、例えば日テレでは前年第2四半期に比べて約186億円、フジテレビでは約134億円の減収となっているのだ。地方の小さい放送局が1年間かけて、一生懸命営業活動をして稼いだ総売り上げの何倍ものお金が減っているということになる。家の外に出て消費行動を促すようなCMは意味が無い。イベントに絡めたCMなんて、もってのほか。映画も延期で、そのCMも流せない。私たちの生活が、為政者の言う"不要不急なもの"に、いかに支えられてきたのかを痛感せざるを得ない。

しかし、このスポットCMの売り上げが如実に表している広告収入の落ち込みが理由であれば、日テレだけが赤字転落というのは道理が通らない。実は日テレHDの業績悪化に拍車をかけたのは、ティップネスなどの総合スポーツクラブ事業だ。コロナ禍による休館や会員数の減少などにより、減収は100億円以上に。下がり続ける放送の広告収入とは別に、新たに稼ぐ収益源を持とうと参入したはずの健康関連事業で、足元をすくわれた形だ。

一方、一人勝ちとなったテレビ東京ホールディングスは、地上波放送事業では他局と変わらない状況となっているが、番組制作費の効率化と抑制、そして放送周辺事業の通販部門やBS放送事業が巣ごもり需要の効果などで増益となったため、前期比約2.7倍の純利益を記録した。

日テレHDの成長戦略とは

ここまで各局の状況について書き連ねてきたが、私がもっとも取り上げたいのはそこではない。中間決算と同時に発表された日テレHDの、2020年代の道筋を示す"新しい成長戦略"がそれだ。デジタル領域の飛躍的拡大、コンテンツへの戦略投資と収支構造の見直し云々、このDX時代によく使われるフレーズが並ぶが、そこが注目点ではない。日テレはその成長戦略の中で、「2020年代半ばには非放送事業収入比率50%超の達成を目指す」と高らかに宣言しているのだ。収入の柱はもはやテレビ=地上波放送に非(あら)ずということを、民放の雄が示したのである。

日テレは成長戦略の中で、開局70年を迎える2023年にデジタル領域事業の連結売上高1000億円を達成するとしていて、具体的にその中心は有料動画配信サイトHuluを筆頭に、広告付き無料動画配信サイトTVerなどの動画コンテンツ配信事業の拡大。さらにリアルとオンラインの融合による新規事業を創出。IT関連事業分野のM&Aへの積極的な取り組みなどを行っていくとしている。他にも、地上波放送にとどまらない、マルチプラットフォームに展開する戦略コンテンツを生み出すとも。

とにかく書いてある内容、その日テレの姿勢がすごすぎる。"ワンソフト・マルチユース"は、かつて日テレ会長を務めた故・氏家齊一郎氏も繰り返し発していた言葉だが、その究極形を目指すということだろうか。2023年と言えば3年後…たった3年でそれが成し遂げられるのか?

同じ業界に身を置く者として、系列局の扱いをどう考えるかなど質問してみたいことは次々と浮かび上がってくるのだが、多分ここまでくると「そんなの関係ねえ」なのだろう。トップカンパニーですら、それほど必死になっているのだ。放送局が放送局、テレビ局と呼ばれなくなる日はすぐそこに迫っているのかもしれない。