11月4日、浦和競馬場にてダート競馬の祭典「JBC」(ジャパンブリーディングファームズカップ)競走が開催された。1日にダートの「Jpn1」(G1級競走)レースが3つも楽しめる競馬界のお祭りを「競馬場の歩き方」が見逃すわけもない。当日は浦和競馬場へと足を運び、名物グルメと競馬を満喫してきた。
地域密着型の競馬場で巨大な馬のオブジェを発見!
JR浦和駅から歩いて15分ほどのところに位置する浦和競馬場。1948年の開業時は、まだ田園風景の残るのどかな雰囲気だったそうだが、その後の経済発展とともに景観は一変。現在では、住宅街のど真ん中にある全国でも稀有な競馬場となっている。
予想通り、場内は黒山の人だかりだった。あまり大規模とはいえない浦和競馬場だけに観衆の密集度も高く、熱気が肌を通して感じられる。
人混みに流されながら、名物グルメを探して場内をさすらっていると、3号スタンドで大きな馬のオブジェを発見した。チェスのナイトのような恰好をしているが、これは一体?
調べてみたところ、チェスノウマ号は川越市在住の発泡スチロールアーティストであるヤジマ キミオさんの作品だった。もともとは菓子屋横丁(川越市)やJR南浦和駅で展示されていたが、2016年に浦和競馬場に転厩し、現在に至るようだ。高さ約2.8mの雄大な馬体は、発泡スチロールでできているとは思えないほど。浦和競馬場を訪れた際は、ぜひご覧いただきたい。
そうこうしているうちに、お腹もペコペコに。早く名物に出会いたいと思っていると、2号スタンド1階で行列を見つけた。
江戸時代から続く老舗そば屋の味が浦和競馬場に!?
行列の先にあるのは、どうやら「里美食堂」というお店らしい。場内パンフレットでは「黄色いカレー」なる気になる文字も確認できた。どんどん長くなる列に、名物グルメ発見の期待感も高まってくる。
順番が回ってきたが、メニューでは「黄色いカレー」なる商品を確認できないので、ここは素直に「カレーライス」を注文してみる。待っている間に、店主の浅野里美さんに話を聞いてみることにした。
――お店っていつから営業されているんですか?
「競馬場が始まってからずっとあります。父が浦和競馬場の立ち上げに関わっていた縁もあって、70年ずっとやっています」
――それはすごいですね。じゃあ「カレーライス」はその時から販売されているんですか?
「そうですね。今あるメニューは、ほとんどオープン当時からあります。昔は焼き鳥や焼きそばなんかもあったんですけど、お店がスタンドの中に移動したこともあって、煙のでるものはやめてしまいました」
――里美食堂さんの「カレーライス」は黄色いということなんですが、これはなぜでしょうか?
「よく聞かれるんですけど、私は疑問に思ったことがないんですよ。レシピはうちのおばあちゃんが考えたもので、記憶が定かではないんですが、当時はみんな、あんなカレーだったんじゃないでしょうか(笑)」
――味にも特徴があるんでしょうか?
「うーん、味は甘口ですけど、カレー屋さんのカレーっていう感じではないですね。おばあちゃんの姉妹が、仙台の『南部屋』っていう江戸時代からやっているお蕎麦屋さんに嫁いだんです。そこで習ったらしくて、要はお蕎麦屋さんのカレーなんですね。だから、黄色くて甘口なんだと思うんですけど」
――なるほど。ところで、先ほど「カレーライス」が15分待ちというアナウンスがありましたが?
「そうなんですよ、お待たせしてすいません。切らさないように、お待たせしないようにと思って、朝3時から仕込んでいたんですけど」
――普段でも「カレーライス」が品切れになることはあるんですか?
「滅多にというか、ほとんどありませんよ。ただ、母に『明日は2万人来るから心配だ』と話したら、『昔はそれぐらい入っていたわよ』っていうんです。『昔はさばいていたんだから、できるわよ』って(笑)」
――やっぱり昔は、普段の開催からすごい人数が詰め掛けていたんですね。
「私が子供の頃はそうですね。確か2万5,000人入って、札止めになっていたと思います。もう満員電車状態ですよ」
――それが連日だと大変ですね。
「昔はとにかく、お客様の手とお金と品物しか見えなかったです。顔を上げている暇がなかったので。とにかくお金をもらって、お釣りを渡して、品物を渡してって感じです」
――お客さんが多すぎて、手しか見えないんですか。すごいエピソードですね。
「人に話すと“嘘でしょ”っていわれますが、本当なんですよ。お客さんからも“俺、もう20年も30年も来てるのに、顔を覚えてくれないよな”っていわれたことがあるぐらい(笑)」
――10年来の常連さんの顔も覚えられないほどだったんですね。最近の客層って変わってきてますか?
「場外の日でも、地方競馬開催の時はやっぱり年配の方が多いです。土日のJRA開催の時は、若い女性の方もよく見かけます。最近は本場も人気になっていて、昔からの常連さんも来ていただけますし、若い方、今日は女性のお客様やお子さん連れの方もすごく多いですね」
――競馬場がまた賑わってきて嬉しいですね。
「やっぱり競馬場に来て食べていただきたいですからね。うち以外にも昔からのお店がありますから、きっと懐かしい味だと思いますよ」
ここで注文していた「カレーライス」が到着したので、実食を開始した。
スプーンですくってひと口頬張ってみると、確かに甘口のカレーだ。具の玉ねぎがたくさん入っていることも影響しているのかもしれない。ただ、香辛料のピリッとしたアクセントも最後に感じられるなど、普通の甘口カレーではなかった。これなら、子供から大人までおいしく食べられそうだ。
あっという間に完食してしまったが、里美食堂の味のルーツが、仙台にある老舗のそば屋という話を聞いてしまうと、そばも食べてみたいという気にさせられる。今度はそばを食べに来ようと心で誓って、後ろ髪を引かれつつその場を後にした。
砂の女王決定戦に全12頭がしのぎを削る
お腹も満たされたところで、JBC競走の1つ「JBCレディスクラシック」の発走時間が近付いてきた。牝馬限定戦として行われるこのレースは、まさに砂の女王決定戦。1,400mの距離で争われる大一番に今年は12頭が出走した。
レースはというと、スタートしてすぐにJRA所属の戸崎圭太騎手が落馬するアクシデントが発生。場内がざわつく中でレースは進んでいく。3コーナーから追い上げを開始した3番人気のヤマニンアンプリメが直線半ばで逃げたゴールドクイーンをかわして先頭に立つと、そのまま押し切って1着でゴールイン。
武豊騎手のメモリアル勝利を見届けたところで、JBC浦和観戦記の前編は終了。後編では一般来場者と交流するなど、さらに色濃く浦和競馬場を楽しんでいく。