東北地方の復興のために、鉄道マンたちが力を合わせて走らせる復興貨物列車。このうち石油輸送列車のルートは2つ。横浜市の根岸貨物ターミナルから新潟、青森経由で盛岡に至るルートと、同じく根岸貨物ターミナルから新潟経由で郡山に至るルートだ。盛岡行きも郡山行きもタンク貨車20両編成だが、郡山行きは新潟で10両ずつに分割される。燃料を待つ側としては「一度に運んで欲しい」だろう。しかし、これは「なんとしてでも東北に燃料を」という鉄道マンの苦肉の策なのだ。
タンク貨車は運行ルートの制約を受ける
鉄道路線の規格はどれも同じではない。長大な列車、重量級の列車が走る区間は最高ランクの堅牢性で作られており、短い旅客列車が主な路線では、少しコスト面に配慮している。具体的には細いレールを使ったり、路盤や基礎を簡素にしているようだ。
もちろんそれらは、普段走行する列車に対しては余裕を持った規格になっている。しかし、旅客列車が前提の路線では重量級の貨物列車は運行できない。震災復興石油輸送列車の場合東北本線が使えないため、上越線、信越線、白新線、羽越線、奥羽本線、青い森鉄道、IGRいわて銀河鉄道という大回りルートとなった。タキ38000形はほぼ全国で運用できる。弱点は、古いタイプのため数が少ないという点。そこで新型のタキ1000が起用されたのだが、容量の大きなタキ1000形を満載で運行すると重すぎて、一部の区間を通行できないという。そこで、積荷を少なめにして対応し、運行可能としたようだ。
また、根岸から郡山へと運行する震災復興石油輸送列車は新潟回りで磐越西線を経由する。磐越西線は大量輸送を前提としていなかったため、列車有効長(最大編成数)が短い。勾配も多く、機関車が引く貨車の重量制限もある。そこで、根岸から新潟貨物ターミナルまでは20両編成1本で走り、新潟貨物ターミナルで10両ずつに分割して、郡山までは2回に分けて輸送している。
いち早く被災地に届けるために、編成分割という手間をかける。そこにJR貨物の心意気を感じさせる。JR貨物といえば、同社自体も機関車や貨車、貨物駅などが被災し、膨大な損失を被っているという。にもかかわらず、被災自治体への救援物資輸送を無償で実施していると聞く。鉄道ファンならずとも、JR貨物には胸を熱くさせられることだろう。
タンク貨車の積荷はいろいろ
タンク貨車の積荷はガソリンや経由だけではない。工業用アルコール、ホルマリン、液体塩素、LPガス、濃硫酸、濃硝酸、苛性ソーダ、液化アンモニア、セメント、アスファルトなど、液状の物質はタンク貨車で運ぶ。小麦粉や醤油、酒などを運ぶタンク車もある。積荷によって圧力や引火性などが異なり、荷主も異なるため、積荷に応じた形式の専用貨車が作られる。
なので、「ガソリンを運ぶタンク貨車を醤油に使い回す」という運用はない。ただし、軽油とガソリン、ジェット燃料など性質が似ている場合は、入念な洗浄と調整の上で転用される場合がある。これはほとんどオーバーホールに近い作業となる。行きはガソリン、帰りはジェット燃料、という使い方はコスト的に見合わないという。
運転士は1人だが……
大型タンクローリー車が60台で運ぶ量を、鉄道貨物列車は1本で運行できる。タンクローリーの運転士は60人、貨物列車は1人。人件費の面でも鉄道のほうが優れている……というわけではない。貨物列車は始発から終着まで1人で運転するわけではなく、受け持ちの区間ごとに交替するからだ。
機関車にも受け持ち区間があって、区間ごとに交替する。その機関車と貨車を繋ぐ係員、信号の管理担当、保線、電力、通過時の安全を確認する駅員も必要だ。そうなると、人件費では単純に比較できない。ただし、1人で全区間を運転するタンクローリーに比べれば、鉄道のほうが定時制、さらには安全性に優れているといえる。タンクローリーは増車するほどドライバーが必要だが、鉄道は1人ひとりの負担が小さく、列車の本数を増やしてもドライバーほど負担が大きくならない。
石油輸送に関していうと、タンクローリーの輸送は軽油を使うため、間接的に積荷を消費しているとも言える。鉄道も火力発電を使っているから単純比較はできないが、1列車あたりで考えると輸送量あたりの燃費は格段に良いと思われる。大量かつ長距離で輸送するほど、鉄道のメリットは大きい。鉄道ファンのひいき目もあるが、この復興を機会に鉄道貨物輸送が見直されることを願う。