常磐線は上野と仙台を太平洋岸沿いに結ぶ路線だ。正式な区間は日暮里駅 - 岩沼駅である。上野駅 - 日暮里駅間と岩沼駅 - 仙台駅は東北本線に乗り入れる形になっている。また、北千住駅 - 取手駅間は各駅停車専用の線路がある。ところが、北千住駅- 綾瀬駅間について、JR東日本は販売しないという特例がある。
JRも東京メトロも「ここウチの線路」という扱い
「当たり前だよ。あそこはJRではなく、東京メトロ千代田線の線路でしょ。だって、綾瀬の先の北綾瀬駅に東京メトロの車庫があるから」と思った人はなかなか鋭い。確かにあの線路は東京メトロの管轄である。綾瀬駅には東京メトロの駅番号「C19」が割り当てられており、北綾瀬駅は「C20」となっている。東京メトロの路線図でも千代田線として描かれている。
しかし、この区間はJR東日本の管轄でもある。JRの電車に乗って、車内に掲げられている路線図を見てみよう。北千住駅 - 綾瀬駅間はJRの線路として描かれている。北千住駅から亀有、金町、松戸へのきっぷを買う場合は、全区間がJR東日本の路線として計算される。しかし、北千住駅から綾瀬駅まで、またはその逆区間のきっぷはJR東日本は販売しない。これはJRの旅客営業規則「第16条の5」として「常磐線北千住・綾瀬間相互発着となる旅客に対しては、乗車券類の発売を行わないものとする」と明記されている。
東京メトロで「130円区間」のきっぷはここだけ
実際に北千住駅や綾瀬駅でJRのきっぷを買おうとすると、料金表にも記載されていないし、きっぷ券売機にも対応するボタンが無い。では、この区間に乗りたい人はどうすればいいのだろうか。答えは単純だ。東京メトロのきっぷを買えばいい。同じ場所に並んでいる東京メトロの券売機に行けば、ちゃんと隣の駅までのきっぷを購入できる。
「じゃあやっぱり東京メトロの線路なんだ」というと、そうでもない。運賃をよく見てほしい。東京メトロの最低運賃は160円のはずだが、実際に購入してみると130円になっている。東京メトロの中でも130円区間はここだけ。実はこれ、JR東日本の運賃規則で決められた料金である。
ややこしいことになっているが、結論から言うと、常磐線各駅停車の北千住駅 - 綾瀬駅間は東京メトロの資産である。ただし営業面では両社の共同運行という形式だ。JRに乗り継ぐ場合はJRの運賃規則が適用され、東京メトロへ乗り継ぐ場合は東京メトロの運賃規則が適用される。そして、この区間だけを乗り継ぐ場合については「東京メトロが管理し、乗客にメリットのある運賃にすること」と決められた。現在はJRの運賃のほうが安いので、JRの運賃の130円になっているというわけだ。
こうなった事情は、開通当時に国鉄と営団地下鉄の思惑が一致した結果である。1971年に常磐線と地下鉄千代田線を直通させるとき、赤字ローカル線廃止問題が勃発した国鉄では、少しでも建設費を安くしたかった。一方、営団地下鉄は北綾瀬の広大な土地に車両基地を設ける計画があった。そこで、営団地下鉄が建設し、国鉄としても利用できるようにしたというわけだ。この特例がJRと東京メトロにも続いている。