鉄道で旅に出ると、ほとんどの人が訪れた駅の写真を撮りたくなるだろう。それが終着駅ならなおさらのこと。「ここまで来たぞ」という達成感が、記念写真を撮る動機になっていると思う。ところで、神奈川県のある駅では「誰もが必ず同じような構図の写真を撮ってしまう」という不思議な駅がある。この駅を訪れた人のブログには、大抵同じ構図の写真があり、新聞や雑誌などで紹介されるときも同じ構図。アマチュア・プロを問わず、右に電車、中央にホーム、左に海の写真を撮ってしまう。なぜだろうか。
では、その駅の写真をご覧いただこう。
誰もがこの構図で写真を撮ってしまう駅「海芝浦」 |
この駅を訪れた人なら、思わずニヤリとしたかもしれない。きっとこの構図で写真を撮っているはずだ。この駅はJR東日本の鶴見線にある「海芝浦駅」である。「終着駅なのに外に出られない駅」として有名な駅だ。
民間企業の私有地だから「覗かないで」
終着駅についても外に出られない駅。その理由は、この駅の敷地が丸ごと「東芝京浜事業所」になっているから。駅自体は無人駅で駅舎はない。しかし、駅舎の代わりに東芝事業所の守衛所がある。ここを通過できる人は東芝京浜事業所の従業員に限られるため、一般の人は外に出られない。東芝京浜事業所の来訪者なら出られる、つまり事業用地に入れるのではないかと思うかもしれないが、来訪者は手前の新芝浦駅近くにある正門を利用しなくてはいけない。だから海芝浦駅は、やっぱり東芝京浜事業所の従業員しか出られない。
海芝浦駅はホームの真下が海という珍しい構造で、海側の風景も良い。だからこの駅自体を訪問目的にする人も多い。そんな駅利用者のために、東芝は駅に隣接して「海芝公園」を開設している。ちょっとした散歩道でベンチもある。首都高湾岸線の鶴見つばさ橋の夜景スポットとしても人気だという。
さて、そんな海芝浦駅で、どうして誰もが上のような構図の写真を撮ってしまうのだろうか。その理由は「東芝の建物が写らないように配慮すると、この構図しか選択肢がないから」である。実は海芝浦駅には、東芝からの「当社構内の撮影はご遠慮ください」という掲示がある。海芝浦駅の写真を撮ろうとして、なおかつ「東芝事業所構内をフレームに入らないように」すると、電車が構内を隠してくれるこの構図がベストだ。
海芝浦駅から東芝京浜事業所を見ても、オフィス棟ばかりで旅人の関心を引くものはない。東芝は電気機関車も製造しているが、この事業所ではないとのこと。それに、引き返すしかない客のために、公園まで用意してくれた東芝から「遠慮してね」と言われたら、素直に従いたくなるというものだ。