日本で一番長い鉄道トンネルは「青函トンネル」だ。延長は53,850m。これは世界最長記録でもある。では、日本で一番短いトンネルはどこかというと、JR東日本の吾妻線にある「樽沢トンネル」で、延長はたったの7.2m。ところがこのトンネル、もうすぐ廃止されるかもしれない。いったい、どういうことだろうか。
「樽沢トンネル」は吾妻線の岩島駅 - 川原湯温泉駅間にある。所在地は群馬県吾妻郡東吾妻町で、川原湯温泉駅から約2km。徒歩30分ほどの場所だ。線路に沿って国道145号線が併走しており、その歩道から見える。歩道には丁寧に「日本一短いトンネル」の看板もある。このあたりは吾妻渓谷と呼ばれており、吾妻川の景勝地へ降りる遊歩道もある。徒歩30分とは遠いけれど、風景はとても良い。ピクニック気分で眺めに行く人も多い。
政権交代の政争の場「八ッ場ダム」予定地
日本一短い鉄道トンネル「樽沢トンネル」は、もうすぐ日本一では無くなるかもしれない。その理由は「もっと短いトンネルができるから」ではなく「廃線になるから」だ。廃線といっても吾妻線が廃止になるわけではなく、線路のルートが変更になる予定だ。
実はここ、2009年の政権交代で政争の焦点となった「八ッ場ダム」の建設予定地になっている。ダム工事に伴って吾妻線は岩島駅 - 川原湯温泉駅 - 長野原草津口駅が新ルートになる。川原湯温泉駅は標高の高い「新川原湯温泉駅」へ移設される。また、ほとんどの区間が長大なトンネルになるという。「樽沢トンネル」自体は水没しない所にあるとのことだが、新ルートが開通すると列車は通らなくなる。
ところが、現政権は「八ッ場ダム」の事業を停止する方針だ。ならば線路の付け替えはなくなるのだろうか。現在はダムの工事がストップ、代替する吾妻線と道路の工事は進められている。吾妻線については先行き不透明な状態になっている。新川原湯温泉に移転した住民もいれば、移転していない住民もいる。このままだと、新旧両線を列車が走るようになるかもしれない。いや、現状でも新川原湯温泉の利用客は駅からバスやクルマで送迎されているようだから、ダム完成に関係なく、線路は付け替えられて、送迎先が新駅になるだけかもしれない。
鉄道ファンとしては、「日本一短いトンネル」の動向が気になる。「樽沢トンネル」が廃線になると、日本一短いトンネルはどうなるか。現在、日本で2番目に短いトンネルは大井川鐵道の「地名トンネル」で約10mという。「地名トンネル」は地元では日本で一番短いと信じられており、大井川鐵道のSL列車のアナウンスでも日本一と紹介されている。ただし、「地名トンネル」は山を掘ったトンネルではなく、かつて線路の上を通過したロープウェーが鉄道の架線と接触しないようにと覆った「建物」という見方もあるようだ。
山を掘ったトンネルとしては、JR東日本の山田線の「古田トンネル」が11mとのこと。果たして「日本一短いトンネル」の座はどちらが射止めるだろうか。鉄道名所を訪れる人々が増えている昨今、「日本一」は大事な観光資源である。この際、吾妻線の新線の長いトンネルの端っこを分断し、むりやり6mほどの「新樽沢トンネル」を作ってしまえば、日本一のタイトルを更新できるかもしれないのに、と考えるのは少々乱暴か……。