かつて全国で活躍した路面電車は、自動車の普及とともに衰退した。しかし近年、環境に優しいLRTが注目を浴び、洗練されたデザインの車両(LRV)が各地で登場している。路面と客室の段差が少ない超低床車両が多く、車体が2~3両に分割された大型車もある。そんな大型車両を観察すると、あれ、中間の車体に車輪がない。浮いてる!?
たとえば鹿児島市交通局1000形「ユートラム」。大型の車体を3分割した姿は「3車体連接構造」と呼ばれている。両端の運転台付きの車体は車輪が付いているけれど、最も大柄な中間の車体に車輪がない。両端の車体で支えてもらう構造となっている。浮いているように見えるため、「フローティング車体」とも呼ばれる。
路面電車の床を低くすると、台車を格納する部分が客室内にできる。一方、フローティング車体はもともと台車がないから、客室の床はすべて平らにできる。そこで、超低床車両には連接構造とフローリング車体を採用する事業者が増えている。日本では、アルナ車両が開発した「リトルダンサー」シリーズと、近畿車輛・三菱重工・東洋電機製造が共同開発した「JTRAM」シリーズがある。
「リトルダンサー」は事業者の求める仕様によって数種類の基本形式がある。フローティング車体の採用例は前述の鹿児島市交通局1000形「ユートラム」(2002年)のほか、土佐電気鉄道(現・とさでん交通)100形「ハートラム」(2002年)、鹿児島市交通局7000形「ユートラム II」(2007年)、長崎電気軌道3000形(2004年)、豊橋鉄道T1000形「ほっトラム」(2008年)などがある。
「JTRAM」は広島電鉄5100形「グリーンムーバーマックス」(2004年)・1000形「ピッコロ」「ピッコラ」「グリーンムーバーLEX」(2013年)で採用された。5100形は全長30m、5車体3台車で、フローティング車体を2つも組み込んだ大型車両だ。路面電車は全長30m以内と軌道運転規則で定められている。しかし、30mの車体は大きすぎて市街地のカーブを曲がれない。そこで連接車体を採用し、カーブに対応している。車体連接タイプの路面電車を見かけたら、フローティング車体をチェックしてみよう。車輪を持たないため、車体がレールをなぞらない。独特の動き方に注目だ。
もちろんすべての連接車がフローティング車体ではない。新潟トランシスが製造する車体連接式超低床車両は台車付きとなっている。福井鉄道F1000形「フクラム」は3車体連接方式を採用し、すべての車体に4輪ずつ車輪がある。ただし、4輪はそれぞれ独立した台車に取り付けられており、車軸を持たない。そのため、本来は車軸のある部分も低床化できた。車輪は椅子の下にある。
超低床車両の普及で、各地の路面電車は乗降しやすく、かっこよくなった。そして、超低床化するための方法はいろいろあるというわけだ。