航空機の分野では、座席の配置を「アブレスト」と呼ぶそうだ。窓側からA・B席、通路を挟んでC・D・E席、また通路を挟んでF・G席と並ぶ場合は「2-3-2の7アブレスト」という。鉄道車両に応用すると、新幹線の普通車のほとんどが「3-2の5アブレスト」、在来線の普通車のほとんどが「2-2の4アブレスト」となる。
鉄道車両で「アブレスト」が使われない理由は、通常は通路が1つだけで他のバリエーションが少ないことや、列配置よりロングシート・クロスシートの区別、あるいは向かい合わせの2列座席を「ボックスシート」と呼ぶなど、「列」より先にこだわる要素があるからかもしれない。
新幹線開業前にも3列+2列の在来線車両が存在した
日本では、いや、多くの国で、鉄道車両のクロスシートは2列+2列が標準的な座席配置となっている。東海道新幹線が営業開始したとき、普通車の3列+2列に驚いた人も多かったという。車体が大きくなって客室も広くなり、ひとりでも多く着席させるためだ。当時の日本人の体格が小柄だったからかもしれない。いずれにしても、2列+2列を当たり前だと思っていた人たちにとって、3列+2列は窮屈に感じる。ちなみに3列シートの中央のB席はA席・C席より広めにするなど工夫されている。
ところで、東海道新幹線の開業前、在来線にも3列+2列の座席配置を採用した電車があった。在来線の車両で3列+2列は新幹線以上に窮屈だ。それでもあえて採用した理由は「修学旅行専用」だったから。車両形式は155系という。急行形電車153系の設計を基本としつつ、より多くの生徒を着席させるため、3列+2列のボックスシートの配置とした。その分、通路は狭くしていた。修学旅行という限定した用途のため、車内販売のワゴンは通らないし、途中駅で乗客が入れ替わり、すれ違うという場面も少ないと考えられた。
155系は他にも修学旅行用の特別な仕様があった。乗降扉の幅を狭くしてデッキの面積を縮小し、その分を客室の拡大に充てた。客室は洗面台を2人用とし、大量に発生する弁当ガラを想定した大きなゴミ箱を装備。各座席に着脱式のテーブルを設置可能としたほか、荷物の多さを想定し、通常は窓上にある荷物棚を各座席の真上に設置した。乗り物酔いなどで気分が悪くなった生徒のために、簡易ベッドとして使える座席も用意された。
155系は修学旅行に用途が限定されていたこともあって、車体色も朱色と黄色の明るい配色となった。関東地区で誕生した修学旅行用電車は好評で、その後、東海地区に159系、山陽地区に167系が製造された。しかし、他の臨時列車に流用する前提で、座席は他の急行形電車と同様、2列+2列となっていた。
これらの修学旅行専用電車は、後継車両が現れることなく1代限りで消えていった。新幹線の普及もあり、修学旅行で長距離を移動する際は新幹線または飛行機の利用が主流となった。短距離の移動もバスに役目を譲った。
現在の修学旅行列車は新幹線の団体貸切や、在来線の特急列車用の車両で臨時列車を走らせる事例が多い。新幹線車両の行先表示器で「修学旅行」という珍しい文字が話題になる。東海道本線品川駅の団体用ホームなどでも、185系などの特急形電車に「修学旅行」と表示された列車を見かける。
新幹線で3列+3列の座席配置だった車両は?
新幹線の普通車でも3列+2列は"詰め込み感"があるけれども、新幹線には3列+3列の座席配置だった車両もあった。東北・上越新幹線で活躍した2階建て車両「Max」だ。「Max」はすでに引退したE1系と後継のE4系があり、どちらも自由席車両の2階席は3列+3列となっている。短い編成でもより多くの乗客を運ぶためだった。
「Max」の2階自由席は指定席より狭く、リクライニングもしない。通路が狭いことから車内販売が来ることも少ない印象で、サービス面では見劣りする座席といえる。指定席・自由席は着席保証などを除いてサービスは共通であることが多いけれど、「Max」は明確に差別化した事例のひとつといえる。1階自由席は3列+2列だったから、階上と階下でも差があった。もっとも、これは眺望と交換条件だったともいえそうだ。
窮屈に思える3列座席だけど、閑散期をはじめ真ん中の席が空く場合が多く、その点では2列座席より快適かもしれない。新幹線の車内では2列座席の窓側から埋まる場合が多い。しかし筆者のように、3列座席の窓側または通路側を好む人も少なくないと思われる。
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