日本は鉄道技術の先進国で、鉄道車両メーカーも多い。代表的な車両メーカーには川崎重工業、近畿車輛、東急車輛製造、東芝、日本車輌製造、日立製作所、新潟トランシスなどがある。また、JR東日本も車両製造事業があり、新津車両製作所では他社向けの車両を製造している。近年は環境への配慮などから鉄道が見直され、世界的にも高速鉄道が注目されており、鉄道車両の輸出も増えているという。

ということで、様々な鉄道会社が、様々な形式の車両を車両メーカーに発注している。ところが、車輪だけはすべて同じ会社が作っているという。電車も、客車も、ディーゼルカーも、貨車も、機関車も、車輪はぜんぶ同じ会社の製品である。

鉄道車輪シェア100%、それは「住友金属工業 交通産機品カンパニー」

日本の鉄道の車輪市場シェア100%を誇る会社は住友金属工業だ。工場(製鋼所)は大阪市此花区にある。敷地はJR桜島線の安治川口駅 - ユニバーサルシティ駅間に接している。ここは日本で最初の民間鋳鋼工場として開業し、車輪以外にも台車や連結器などの鉄道部品、その他にも自動車、船舶に使われる部品を作っているという。

できたての「一体圧延車輪」(写真: 住友金属工業)

鉄道の車輪は車体とレールの唯一の接点で、数tもの重量を僅かな面積で支えている。鉄道車両にとっては、いうまでもなく最も重要な部品の1つ。同社がシェアを伸ばした理由は、「清浄度」と「技術開発」にあるようだ。

「清浄度を上げる」とは、材料から不純物や空泡を徹底的に取り除くこと。車輪に不純物が混じったり、空泡ができたりすると、大きな荷重がかかったときに亀裂を発生させる原因になる。同社の車輪は世界トップクラスの清浄度で、最も厳しいといわれる米国の貨車車輪用超音波テストを余裕でクリアするという。

技術開発では、耐熱性に優れた「HT車輪」や「波打車輪」がある。HT車輪は、素材配合や製法を工夫して、ブレーキをかけたときに車輪に発生する熱の影響を受けにくくした車輪。波打車輪は、波板が平板より剛性が高いことに注目して軽量化した車輪だ。どちらも同社が世界に先駆けて開発したという。現在は両方のメリットを兼ね備えた「新波打(HT波打)車輪」が主力商品とのこと。また、車輪にステンレスやゴム製のリングを組み合わせた「防音車輪」も開発しており、静かで乗り心地の良い車輪の製造も手がけているという。

住友金属工業が製造する鉄道車輪(資料: 住友金属工業)

鉄道を利用するときは、車体や客室の進化に注目しがちだ。しかし、「ただの円盤」と思っていた車輪も進化を続けている。列車に乗るときは「足下」にも注目しよう。