えちぜん鉄道と福井鉄道の相互直通運転を体験した。えちぜん鉄道三国芦原線の鷲塚針原駅からLRV車両「ki-bo(キーボ)」に乗る。最新型電車は鉄道区間をすいすい走り、田原町駅の手前でポイントを渡って福井鉄道福武線のホームへ。ここから福井市中心部まで併用軌道区間、つまり路面電車になる。

  • えちぜん鉄道のLRV車両「ki-bo(キーボ)」

最新型車両「ki-bo」も速度を落とし、周囲の自動車たちと歩調を合わせる。……ん? いや、遅い。自動車より遅い。路線バスにも追い越された。あれれ、どうなってるの?

そういえば、全国各地で路面電車に乗ったけれども、路線バスに抜かれる場面はたびたびあった。そのときは「電車が古いから速度を出せない」と思っていた。速度は出せても、ブレーキの性能が追いつかないのかもしれない。

ただし、最新のLRV車両なら加速も減速もバスと同等かそれ以上のはず。揺れが少ない分、バスより乗り心地も良い。「もっとスピードを出してくれないと、バスに負けちゃうよ。頑張れ路面電車!」と言いたくなる。

  • 福井鉄道のLRV車両「FUKURAM」

路面電車は専用軌道区間でスピードを出すのに、併用軌道区間は遅い。これには理由がある。規則で決まっているからだ。その規則とは「昭和29年4月30日運輸省令第22号」の「軌道運転規則」。現在は国土交通省令として継続している。その第53条によると、

第五十三条 車両の運転速度は、動力制動機を備えたものにあつては、最高速度は毎時四十キロメートル以下、平均速度は毎時三十キロメートル以下とし、その他のものにあつては、最高速度は毎時二十五キロメートル以下、平均速度は毎時十六キロメートル以下とする。

となっている。動力制動機は、油圧や電動などの動力を持つ機械式ブレーキを指す。つまり、路面電車の多くは「動力制動機を備えたもの」であり、最高速度は時速40km以下と定められている。「その他のもの」は手ブレーキなどの車両を指す。人力で動かす客車、馬車鉄道車両などが該当する。これらは時速25km以下となる。

一方、路線バスについては道路交通法によって速度が定められている。速度制限のない一般道路において、最高速度は時速60kmだ。もっとも、都市部では最高速度が時速50kmまたは時速40kmなどに抑えられている道路も多い。

では、道路の速度制限が時速30km以下の場合、路面電車のほうが速いかというと、路面電車も道路の制限速度を守らなければならない。こちらは道路交通法で定められている。

第二十二条の2 路面電車又はトロリーバスは、軌道法(大正十年法律第七十六号)第十四条(同法第三十一条において準用する場合を含む。第六十二条において同じ。)の規定に基づく命令で定める最高速度をこえない範囲内で道路標識等によりその最高速度が指定されている道路においてはその最高速度を、その他の道路においては当該命令で定める最高速度をこえる速度で進行してはならない。

軌道法第14条には「軌道ノ建設、運輸、運転及係員ニ関スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム」とあり、ここでいう「命令」が前述の国土交通省令「軌道運転規則」となる。

つまり併用軌道区間の路面電車は、軌道法による最高速度または道路交通法による最高速度のうち、低いほうを超えてはいけないということになる。最高速度を比較すると、道路上を走る路線バスは時速60km、路面電車は時速40kmとなり、「路面電車は路線バスより遅い」となる。路線バスだって時速60kmで走れる場面は少ないと思うけれども、道路に渋滞がなく青信号が続き、停留所に停まる必要がなければ、時速60kmは可能だ。

そこまでわかると、かつて路面電車が衰退した理由もわかる気がする。自動車や路線バスの性能が良くなり、道路の速度制限が緩和される中、路面電車がゆっくり走れば渋滞の原因になる。遅い車両を排除すれば、クルマは道路を走りやすくなる。

もっとも、この「軌道運転規則」の制定は昭和29(1954)年と古い。電車の性能も現在より低かった時代の規則だ。それだけに、性能が上がった最新型のLRV車両の運行を前提に改正し、最高速度を引き上げたほうがいいのではないかとも思う。路面電車とクルマが同じ条件で走れば、道路はもっと流れやすくなるだろう。