取材ではなく、ぶらりと日帰り旅に出た。新春だし、富士山でも眺めに行こうか。富士山といえば岳南電車だ。すべての駅から富士山が見える。ところが、終点の岳南江尾駅に着いたら、富士山より気になるものがあった。

  • 岳南江尾駅のホームからも、新幹線の高架越しに富士山が見える

プライベートな旅先でも、珍しいものを見つけると書きたくなってしまうのがフリーライターの悪い癖。珍しいものとは、駅舎のそばに立てられた木碑だ。「日本一市民のキモチが盛り上がっている駅」と書いてある。さらに加えて、隣の駅は銀河かと思わせるような流れ星の表示も。いや、ここ、終点なんだけど……。

  • 岳南江尾駅の駅舎のそばに木碑が立っている

  • 終点のはずが、次の駅は銀河……?

一体どういうことか、後日、岳南電車に電話して聞いてみた。

「その碑は"岳鉄イカシ隊"という、岳南電車を応援する人々が建ててくれました。駅名標が古くなったので、新しい駅名標を作るときに支援してくださいました。その新しい駅名標と同時に、碑を建てたんですよ」

「岳鉄イカシ隊」とはなんぞや。さらに話を聞くと、岳南電車の応援団で、普段は駅舎や車両の清掃活動などで応援している人々だという。活動後はバーベキューで盛り上がることもあるそうだ。も、もしかして、日本一バーベキューで盛り上がっているのか……?

そこで「岳鉄イカシ隊」の所属事務所、特定非営利活動法人ふじ環境倶楽部事務局の太田眞弓さんからも話を聞いてみた。

「はい。岳南江尾駅の駅名標を作ったり、木碑を立てたりしました。岳鉄イカシ隊は岳南鉄道(当時)が貨物事業から撤退して経営危機になったときに、『私たちの鉄道を残そう』というキモチから結成されました。電車は環境に優しいエコな乗りものですから、ふじ環境倶楽部の目的と一致します。岳南電車はなくしてはいけない。そういうキモチで盛り上がっています」

岳南鉄道は2012年3月に貨物事業を停止した。しかしそれは赤字が理由ではなかった。むしろ経営の大黒柱だった。岳南鉄道が輸送する貨物は有蓋貨車ワム80000形を使い、起点の吉原駅からJR貨物の列車に引き継がれていた。2012年3月のダイヤ改正で、JR貨物は速度の遅いワム80000形の運用停止を決め、コンテナ輸送に切り替えた。その結果、岳南鉄道はコンテナ搭載貨車に対応できず、荷主がトラック輸送に切り替えてしまった。

その岳南鉄道の存続のために立ち上がった団体が「岳南イカシ隊」というわけだ。鉄道を残したい。このキモチは岳南江尾駅を突き抜け、銀河に届きますように。そんな思いを込め、駅名標は岳南江尾駅の次の駅として銀河を示す流れ星がデザインされたそうだ。

ちなみに、「岳南イカシ隊」が活動する「ふじ環境倶楽部」の活動内容は、内閣府のNPO法人ポータルサイトによると、

市民・企業・行政のパートナーシップを基本としながら、富士地域(富士市及びその周辺地域)の自然及び社会的な地域資源を掘り起こし、また磨き上げるとともに、地域資源を活用したまちづくり計画の策定、まちづくり活動の実践、市民団体相互のネットワークの構築等を通じて、市民がこの地域で誇りを持って働き、暮らしていける資源循環・環境共生型のまちづくりに寄与することを目的とする。

とのことだった。「岳南電車に乗ってサクラ並木を楽しむお花見ウォーク」をはじめ、ジヤトコと協力して、付近に流れる滝川の自然保全やジヤトコ前駅に芝桜を植える活動なども行っているそうだ。

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岳南電車の岳南江尾駅は、たしかに「日本一市民の(岳南電車を残したいという)キモチが盛り上がっている駅」だった。