鉄道貨物というと個人向けではなく企業向けという印象がある。実際にその通りで、コンテナ輸送はJR貨物と運送会社の契約で行われている。でも、鉄道ファンなら鉄道貨物コンテナで引っ越しをやってみたい。自宅に鉄道貨物コンテナがやってきて、自分の荷物を積み込んでもらえる。なんだかわくわくするではないか。

鉄道コンテナで引っ越しなんてできるだろうか。じつは、JR貨物のホームページに、ちゃんと「引っ越しサービス」の項目がある。しかも、こんな記述が。

買い物袋をエコバックにすること、エアコンを少し控えること、水や電気を節約すること。そして身近な輸送「引越し」に鉄道コンテナ輸送を利用すること。新たな生活への第一歩は、地球温暖化防止への第一歩です。

むしろ「どんどん使ってください」と言いたそうな書き方だ。個人で鉄道貨物コンテナを使ってもいいんだ!

個人でもコンテナの荷主になれる

真四角なコンテナの内部は4畳半ほどの空間

引っ越しといえば、運送会社や引っ越し会社のトラック便が一般的だ。しかし鉄道コンテナにはメリットがたくさんある。コンテナ貨物駅は全国に140以上もあって、全国どこへでも運んでもらえる。鉄道輸送のため、時間に正確。コンテナ数を増やせば、大家族の引っ越しにも対応できる。JR貨物の12フィートコンテナを使う場合、容量の目安としては、4畳半1部屋分になるそうだ。トラック便では運びにくい大型の家具も、コンテナに入る。ただし、ガソリンタンクがあるオートバイやペットなど、運べないものもある。

出発駅・到着駅でそれぞれ合計5日間まで無料でコンテナごと保管してくれる。これは本来、荷主の希望と貨物列車のダイヤが合わない場合の制度だろう。しかし、引っ越しの場合は「家賃の精算日の都合で現住所の退去が早まってしまった」とか、「引っ越し先の新築やリフォームが終わるまで時間がかかる」とか、「仕事の都合で、引っ越しに立ち会える日と自分の退去日、入居日が合わない」という事態もある。そんなときに一時預かりサービスは便利だ。荷物保管サービスは引っ越し業者でも実施しているけれど、たいていは有料。いったんトラックから倉庫に移すだけでも人手がかかるから当然といえる。しかし、鉄道コンテナならトラックの荷台から保管場所に降ろすだけだ。

鉄道貨物を使う引っ越しといっても、貨物駅に荷物を持参するとか、引き取りに行く必要はない。JR貨物によると、提携運送会社のトラックを使って、自宅まで集荷に来てくれるという。そこから貨物ターミナルへ行き、貨物列車に乗って引っ越し先付近の貨物ターミナルで降ろされる。ここからまた、提携運送会社のトラックで新居に届けてくれる。

JR貨物と提携業者の組み合わせだと、運ぶだけの最低限のサービスになる。梱包や家電の設置など、引っ越し業者のサービスを利用したい場合は、引っ越し事業者の鉄道コンテナ便サービスを利用しよう。たとえば日通の「単身パックX」というメニューだと、利用者は段ボール箱に小物類を詰める作業だけ。大きな家具や家電類はスタッフが梱包し、トラックに積み込んでくれる。新居に搬入するときも、大型家具や家電類を開梱し設置してくれる。トラックがコンテナトラックになるだけで、引っ越し事業者と同じサービスだ。

ただし、日本通運など大手運送会社の場合、鉄道ファンとしてはちょっと気になるところがある。JR貨物の茶色や緑のコンテナではなく、運送会社が保有するコンテナになってしまうかもしれない。残念ながら、コンテナの種類までは選べないし、そんな要望を出しても困惑させるだけだ。

また、鉄道便といっても、実際は普通のトラックが集荷に現れて、別の場所でコンテナに積み替えるというサービスもある。同じ方面の引っ越し荷物なら、同じコンテナにまとめたほうが費用を抑えられる。もちろんその安さはサービス料金に反映される。

中堅どころの引っ越し業者の場合、自社コンテナを持たないため、JR貨物コンテナになる可能性は高い。たとえば引越社の「長距離エコリーズナブルパック」は、搬出・搬入だけ引越社のスタッフがサービスをし、コンテナを積んだトラックは提携運送会社が走らせる。サービスの説明の中で「トラックの荷台がJRコンテナになっていて」と明記されている。これなら安心して、我が家にJRコンテナを横付けしてもらえそうだ。

気になるところは料金だ。引っ越しの料金は「荷物の量」「家具の数、大きさや種類」「家電品の数」によって変わるため、あらかじめ見積もりに来てもらう形になる。いくつかの引越情報サイトを見てみたけれど、500km以上の引越なら鉄道のほうが安い。近距離の引っ越しは、業者のトラックのほうが安いなどと曖昧な記述だった。

そんな中で、日本通運の「単身パックX」はエリアごとのパッケージ料金が明確に示されていた。コンテナ1個の場合、東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県から、大阪府・兵庫県までは7万円。北海道~福岡県は9万8,500円となっていた。この料金が目安となりそうだ。なお、このパッケージは引っ越しの距離が150km以上に限定されている。長距離の引っ越しを検討する鉄道ファンなら、エコでリーズナブルな鉄道貨物輸送を使ってみたい。