JR北海道が発表した非電化区間用の新型気動車H100形「DECMO(デクモ)」の報道資料を見て、「座席が少ない……」と思った。置換え予定のキハ40形の座席数は48席、H100形の座席数は36席。なんと4分の3になっている。

H100形はJR東日本の新型気動車GV-E400系の両側運転台仕様を基本に、極寒対策など北海道仕様を加えたという。GV-E400系の報道資料を見ると、定員の99名はH100形と同じだ。ただし、こちらは座席数が明記されていない。内部見取り図もない。これに対して、H100形の報道資料は座席数が明記されていた。だから座席数の減少がわかりやすかった。

H100形の車内レイアウト(報道資料をもとに筆者作成)

H100形の報道資料には客室内の見取り図もあった。座席数の低下の理由は、ロングシートの増加とバリアフリー対応トイレ、車いすスペースの設置だ。これはGV-E400系も同じだろう。座席を並べるより大型トイレを設置するほうが高くつきそうだ。JR東日本はもちろん、JR北海道もたいへんな経営状況の中、乗客に優しい鉄道会社であろうとしている。

JR北海道だけが人に優しいわけではなく、最近の新型鉄道車両の特徴に「バリアフリー対応」が挙げられる。とくにトイレの大型化が目立つ。おかげで車いす利用者だけではなく、乳幼児を世話する人も恩恵を受ける。大きな荷物を持った人も、荷物と一緒にトイレには入れるから、盗難の心配がない。すばらしい。

もっとも、バリアフリー対応トイレの設置は鉄道会社の善意だけではない。法令できちんと定められている。どの鉄道会社も法令を遵守しているというわけだ。

いわゆるバリアフリー法とは、2000(平成12)年に制定された「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」のこと。この法律と、1994年制定の「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」を統合して、2006年に「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」が成立した。統合前の法律と区別して「バリアフリー新法」と呼ぶ場合もある。

バリアフリー法では、鉄道の他に航空機、船舶、道路、屋外駐車場、都市公園、建築物など、公共物のほとんどが対象となる。所有者に対し、バリアフリー化基準(移動等円滑化基準)への適合義務を課し、既存設備についても基準適合の努力義務を求めた。新法への移行では、とくに適合を要する施設として特定道路、特定公園が定められたほか、地方公共団体が地域一体となってバリアフリー事業を実施できるとした。

バリアフリー新法で鉄道車両に関する部分は第9条だ。要約すると、国土交通大臣が鉄道事業法などによる許可、認可などを申請した場合は、従来の基準の他に「公共交通移動等円滑化基準」に適合するかを審査する。適合しなければ許可、認可してはいけない。鉄道事業者などは、施設の新設または大規模改良を実施する場合は国土交通大臣に届けなくてはいけない。国土交通大臣は違反があった場合に是正処置を命ずることができる。

この条文にある「公共交通移動等円滑化基準」とは、平成18年2月15日付けの「国土交通省令第111号」だ。 鉄道車両については第30条~第33条に規定されている。こちらも項目を要約して列挙した。

  • 旅客用乗降ドア部分の車両とプラットホームの隙間はできるだけ小さく、段差は少なく。
  • 旅客用乗降ドアは、1列車のにつき1カ所以上は幅80cm以上。ドアの開閉音装置を付ける。
  • 客室(車内)には1列車に1カ所以上の車いすスペースを設置する。車いすスペースの所在を明確に表示する。
  • 車いす使用者が円滑に利用するために十分な広さを確保する。
  • 車いす使用者が利用する際に支障となる段をつけない。
  • 便所を設置する場合は、1列車ごとに1つ以上は車いす使用者に対応させる。
  • 車いす使用者が移動する通路の幅は80cm以上
  • 車内に段差を設ける場合は床と色を変えてわかりやすくする。
  • 通路及び客室内には、手すりを設けなければならない。
  • 客室には、列車の次の停車駅、運行情報を文字や音声で提供する設備を設置する。
  • 客室内の旅客用乗降ドアとその付近に、●号車などの車両の位置に関する情報を文字と点字で表示する。

JR北海道のH100形についてもこの基準に適合させている。H100形は両側に運転台があり、1両だけで1列車になるから、車いすスペースが必須となる。トイレについても、長距離運行で無人駅が多く、運行本数の少なさという状況からも必要な設備となる。設置するとなれば1両1列車を考慮して、車いす対応トイレになる。

一方、JR東日本のGV-E400系は、1両編成の定員がH100形と同じ99名に対し、2両編成の場合は232名となり、3倍の定員数になった。1両につき運転台が片側のみで、車いす対応スペース・車いす対応トイレは2両編成のうち1つでよいという考え方だと思われる。

車いす対応スペース、車いす対応トイレ、車いす対応乗降ドアに関して「構造上の理由によりやむを得ない場合は、この限りでない」という文言もある。ただし、これは大規模改造の場合で、新規に製造する車両に対して「構造上やむをえず」は通じないだろう。「初めからバリアフリー基準に適合する構造にしなさい」がこの法律の趣旨と思われる。

そう考えると、バリアフリー法に配慮して引退した小田急ロマンスカー10000形「HiSE」が、長野電鉄1000系として活躍できた理由もわかる。ハイデッカーの小田急10000形を小田急電鉄で使用するために大規模改造する場合、車いす対応スペースと車いす対応トイレが必要になる。そこまでの工事は設置できなかった。

長野電鉄1000系では、展望室への通路の段差をなくしてバリアフリーに対応した。全席自由席のため、誰でもバリアフリー座席を使用できる。トイレのある車両も連結しなかった。トイレがない編成に車いす対応トイレは義務づけられない。

新製車両は初めからバリアフリーを前提に設計できる。大規模改造のバリアフリー改造は難しい。老朽化車両のリフォームが難しくなったいま、引退時期がさらに早まっていくかもしれない。