鉄道ファンの愛読書といえる全国版時刻表。書店では様々な種類の時刻表が販売されており、もっとも大きなサイズはB5版。現在はJTBパブリッシングと交通新聞社が出版している。B5版時刻表は情報量が多く、それだけに厚くて重い。ただし、その重さにも上限があって、必ず1kg以下になるように作られているという。
さて、その話は本当だろうか。いま販売中の時刻表で実際に計ってみた。
……本当に1kg以下だった。この2010年3月号はJR各社のダイヤ改正を反映したもので、カラー特集ページやダイヤ改正関連記事も多く、通常の号より重いはず。いや、もしかしたら、この前月、2010年2月号のほうが重かったかもしれない。通常の時刻表のほかに、3月改正ダイヤの特急列車の時刻も掲載されたからだ。もっとも、それにしても1ページは1g以下。20ページくらい増えても1kg以下に収まる計算だ。
1kg制限の理由は「第三種郵便物」制度
時刻表が1kg以下で作られる理由は「郵送料」だ。ほとんどの雑誌は2つのルートで読者に届く。1つは印刷工場から出版取次店を経由して書店へというルート。この場合は専用の輸送便を使うので郵便は使わない。しかしもう1つのルート・出版社から定期購読者へは郵便で送られる。雑誌のほとんどは定形外郵便物やゆうメール(旧冊子小包)の大きさだ。しかし「第三種郵便物」に認定されると、郵送料が大幅に割引になる。
時刻表の場合、定形外郵便の送料は580円、ゆうメール(旧冊子小包)の送料は340円。しかし第三種郵便物扱いだと212円で済む。この第三種郵便物の上限が1kgとなっているのだ。時刻表は書店販売の他に、全国の鉄道事業者、旅行代理店、出張の多い企業の定期購読者が多いので、特に送料を低く抑えたいという気持ちが強く、第三種郵便物という条件は欠かせない。
第三種郵便物は郵便法に定められており、日本郵便株式会社が認定する。その条件は厳しく、「毎年4回以上の定期刊行物」「500部以上の発行部数」「掲載終了を予定しない」「公共事項の報道や議論を目的とし、あまねく(不特定多数)に販売する」「広告ページが50%以下」「定価を記載する」などとなっている。ちなみに第一種郵便物は手紙(封筒入り)、第二種郵便物は「はがき」、第四種郵便物は「教育、学術研究用」となっている。
……と、これだけでは鉄道トリビアではなく郵便トリビアになってしまうので、もう少し時刻表の話を続けよう。
時刻表と「1kg制限」の戦いは涙ぐましい努力があって、新路線が開通すればページ数が増える。特に新幹線など主要路線の開業や臨時列車の大増発が悩みどころ。そこでまず工夫した部分は紙だという。時刻表の用紙は特注品で、薄くて軽く、破れにくく、印刷しても裏面が透けない。本文ページの重さは1平方mあたり29gで、古紙を6割以上混ぜている。ちなみに新聞紙は1平方mあたり40~47gとのことだから、時刻表の紙は新聞紙よりも軽い。
それでも増ページのため1kgを超えてしまいそうなときは「サイズを5mm程度小さく裁断する」「郵送に使う封筒を紙より軽いフィルム素材にする」などの裏技も使われるという。また、紙は湿気を吸うと重くなるため、時刻表は1kgピッタリで作ってはいけない。湿気や封筒の重さも考えて、実際は1kgより軽く作られている。
ちなみに今回、「JTB時刻表」1000号記念号を計ってみたらピッタリ1,000gだった。これにはビックリで「ここまで"1000"にこだわったか」と思うけれど、おそらくこれは偶然。発行から約1年で湿気を吸った結果だ。発行時は若干軽かったはずである。また、家庭用の計りは郵便局の計量器よりも誤差が大きく、今回使用した計りは説明書によると±3gの誤差があり得るとのことだ。