九州新幹線「つばめ」、東北新幹線「はやぶさ」、上越新幹線「とき」をはじめ、「かもめ」「しらさぎ」「サンダーバード」など、鳥にちなんだ列車名は多い。空を飛ぶ姿から、スピードをイメージしやすいからだろう。過去には「雷鳥」「はくつる」「ゆうづる」「はつかり」などもあった。
山形新幹線「つばさ」も鳥にちなんでいるけれど、鳥に翼はつきものだ。この愛称は在来線特急時代のエル特急「つばさ」を継承している。では、在来線時代の列車名の「つばさ」はどの鳥の翼だろう。結論から言うと、正確な命名の由来はわからなかった。「諸説ある」という答えになる。しかし、登場した当時の時刻表などを調べると、「つばさ」に関連する列車が2つあった。
列車名を詳しく解説している『国鉄・JR 列車名大辞典』(寺本光照著・中央書院)を調べてみても、「つばさ」の項目には由来が記されていない。本書をひもとけば、列車名の由来は目的地の地名、旧国名、山や岬など地域のシンボルなどが明記されている。「つばさ」のように、由来が示されていない列車名は珍しい。
「発展祈願」説と「白鳥の翼」説
インターネットで調べたところ、「つばさ」に関する「諸説」のひとつに「白鳥の翼」があった。Wikipediaによれば以下の通り。
「奥羽本線沿線の発展を祈願するために」と言う意味合いが列車名の由来とされている。ただし、設定当初に大阪駅 - 青森駅間の特急「白鳥」との間で結合特急券制度が存在し、秋田駅発着に際して上り列車は同時発車を行うなど縁が深かったことから、「白鳥のつばさ」と言う説もある。(Wikipedia contributors. "つばさ (列車)." Wikipedia. Wikipedia, 17 Dec. 2016. Web. 17 Dec. 2016.)
特急「つばさ」は1961(昭和36)年10月、いわゆる「サンロクトオ」白紙ダイヤ改正でデビューした。それまで東海道本線・山陽本線・東北本線で運行されていた特急列車を全国に拡大した。「つばさ」も全国に誕生した特急列車のひとつだ。運行区間は上野~秋田間で、奥羽本線を経由した。車両は当時最新鋭の特急形気動車キハ82系だった。
同じダイヤ改正で特急「白鳥」も誕生した。「白鳥」は北陸本線・信越本線・羽越本線経由で大阪~青森間を走る車両と、直江津駅で分割し、大阪~上野間を走る車両があった。こちらも当初はキハ82系を使用していた。
「つばさ」と「白鳥」は秋田駅での発着時刻が連携していた。『時刻表復刻版戦後編1より 1961年10月号』(JTBパブリッシング)を確認すると、下り「つばさ」は上野駅12時30分発で秋田駅21時着。2分の待ち時間で、青森行「白鳥」は秋田駅21時02分発、青森駅23時50分着。上りは「白鳥」が青森駅5時20分発、秋田駅8時7分着。3分の待ち時間で上野行「つばさ」は秋田駅8時10分発、上野駅16時40分着だ。
たしかに「白鳥」と「つばさ」の縁は深かった。「結合特急券制度」についても、時刻表の欄外に表記されている。
秋田で特急つばさから特急白鳥に乗り継がれる方には通しの特急券を発売いたします。
(下り時刻表)
秋田で特急白鳥から特急つばさに乗り継がれる方には通しの特急券を発売いたします。
(上り時刻表)
鳥と翼の組み合わせだから、利用客も窓口の係員も覚えやすかっただろう。
後に電車特急「つぱさ」に絵入りのヘッドマークが採用されたとき、赤い背景に翼を広げた白い鳥が描かれた。これも「白鳥の翼」説を裏づけている。名前の由来はともかく、「白鳥の翼」と認知されていたから図案ができたといえる。
「おおぞら」への「つばさ」説
「つばさ」は「白鳥」との乗継ぎで上野~青森間を移動できた。しかし、まだその先がある。「白鳥」は青森駅で青函連絡船に接続しており、その青函連絡船は函館~旭川間の特急「おおぞら」に接続した。函館本線・室蘭本線・千歳線経由だった。
下りの旭川駅到着時刻は11時25分だ。上野駅から旭川駅まで約23時間で結んでいた。上りは旭川駅17時30分発で、函館駅到着は24時。「白鳥」「つばさ」を乗り継いで上野駅まで、こちらも約23時間かかった。「つばさ」に乗れば、函館から「おおぞら」に乗れる。つまり「おおぞら」への「つばさ」というわけだ。
「東北の両翼」説
奥羽本線経由で上野~秋田間を結んだ「つばさ」は、2年後の1963年12月から盛岡駅発着の編成を併結した。分割・併合は福島駅で実施した。福島駅を境として、山形側・盛岡側へと別れるルートを両翼に例えたという説がある。これは東北の発展を祈願するという趣旨にも沿っている。しかし、盛岡編成は「つばさ」の運行開始後に追加されているから、「つばさ」の名前の由来ではない。
「やまばと」の「つばさ」説
特急「やまばと」は上野~山形間の特急列車だった。使用車両はキハ82系で「つばさ」とローテーションしていた。つまり「やまばと」と「つばさ」はペアを組んでいた。そこで「やまばと」の「つばさ」という説もあるようだ。しかし、これも時期が合わない。「やまばと」の誕生は1964年で、「つばさ」の3年後だった。
諸説を比較すると、最も納得できる考察は「白鳥」の「つばさ」説であり、それを補足する材料として「おおぞら」の関連がある。だから真偽はともかく、話のネタとして「つばさ」は「白鳥」と「おおぞら」と関係があるという見解でいいのではないか。