駅弁「牛肉どまん中」といえば、ずっしり感のある牛丼弁当として大人気だ。全国の駅弁イベントの定番商品であり、JR東京駅改札内の駅弁売り場でも常備しているから、東京駅の駅弁だと思う人も多いらしい。この駅弁は、本来は山形県の米沢駅の駅弁だ。箱には「米沢名物」の文字もある。しかし、お腹が減っていれば見逃しそうだし、全国的に有名になっているから、「米沢駅の駅弁」であることもトリビアかもしれない。
「牛肉どまん中」を製造販売する新杵屋は1921(大正10)年創業で、当初は菓子製造販売業だった。米沢駅の駅弁販売は戦後、1947(昭和22)年から。「牛肉どまん中」は1992年の山形新幹線開業を機に、これまでにない名物駅弁を作ろうと開発された商品である。
名前のセンスも抜群だ。「牛肉」が「どまん中」。直球ストライク。しかも肉好きの胃袋を振るわせる剛速球である。しかし「どまん中」は直球勝負という意味ではない。山形県のお米のブランド名「どまんなか」に由来している。牛肉と「どまんなか」というお米を使っているから「牛肉どまん中」。ネーミングセンスは直球そのものである。では、お米の「どまんなか」の由来は何かというと、開発した山形県農業試験場庄内支場が庄内平野の中央部にあるから。公募で決まったという。
ところで、山形名産のお米を使うなら、他にもおいしい山形ブランド米がある。1993年に品種登録された「はえぬき」は「どまんなか」と同時期にデビュー。1998年に品種登録された「つや姫」は全農山形イチオシの様子。2014年に品種登録された「山形95号」は、産地によって「雪きらり」「ひだまり」など名前が異なる。2018年には「山形112号」が品種登録される予定で、ブランド名の公募が終わり、選考中とのこと。
もし「どまんなか」以外のお米を使ったら、「牛肉どまん中」ではなく「牛肉はえぬき」「牛肉つや姫」になったかもしれない。うむむ……。名前のインパクトという意味では、やっぱり「牛肉どまん中」が良さそうだ。それでも、どうして「どまんなか」を使ったか知りたい。製造販売元の新杵屋に聞いてみたところ、こんな答えが返ってきた。
山形新幹線開業をきっかけとして、新しい弁当を開発するとき、山形の新しいお米を使おうと考えた。そのときに登場していたお米が「どまんなか」と「はえぬき」だった。両方のお米を炊いて試作したところ、「どまんなか」は冷めても美味しく、牛肉煮のタレが絡みやすかった。そこで「どまんなか」を採用した。
駅弁の名前を決めるときには、「どまんなか」を使っているからというだけではなく、駅弁界の「ど真ん中」になりたいとの思いがあったとのこと。なるほど、肉好きのハートに「ど真ん中」という意味合いもハズレではなかったようだ。
ちなみに、今後「牛肉はえぬき」「牛肉つや姫」「牛肉山形95号」を出す予定があるか聞いたところ、「まったくありません」との答えだった。じつは、新杵屋の弁当はすべて「どまんなか」を使っているそうだ。参考までに「どまんなか」を家庭でおいしく炊くためのアドバイスをお願いしたところ、「うちは4.4kgの米を炊いて10kgのごはんを作ります。ご参考にならなくて申し訳ないです」とのことだった。
「牛肉どまん中」では、肉の味付けに醤油ダレを使っている。最近は醤油ダレの他に、塩ダレで調理した「牛肉どまん中 しお」、味噌ダレで調理した「牛肉どまん中 みそ」、カレー風味の「牛肉どまん中 カレー」もある。「どまん中」が4つもあって、本当の「どまん中」はどれなんだ……。そんなあなたのために、小さめの「醤油」「しお」「みそ」をセットにした「三昧牛肉どまん中」も販売している。
牛肉好きに直球の「牛肉どまん中」。3つとも胃袋にキャッチしてスリーストライク。うまさにノックアウト間違いなし。助っ人外人のカレーもよろしくね……失礼しました。