鉄道の旅のお楽しみといえば駅弁だ。新幹線や特急列車に乗るときは、食事の時間帯ではなくても、なんだか駅弁を食べたくなる。駅弁を販売する駅は減っているけれど、現在も主要駅では幕の内タイプの駅弁やご当地グルメをあしらった駅弁が販売されている。

JR四国でも、主要駅や一部列車の車内で駅弁が販売されている。その中でも、とくに子供たちに人気の駅弁といえば「アンパンマン弁当」。アンパンマンは絵本作家のやなせたかし氏が創作したキャラクターだ。顔はあんパンで作られており、お腹が空いて元気がない人に出会うと、自分の顔を差し出して食べてもらう。

「アンパンマン弁当」1,140円(税込、10月1日から1,200円)

「げんき100ばい! アンパンマン弁当」1,240円(税込、10月1日から1,300円)

やなせたかし氏は少年時代を高知県で過ごしており、その縁でJR四国はアンパンマンを積極的に採用している。特急列車にアンパンマンをラッピングした「アンパンマン列車」、観光車両「ゆうゆうアンパンマンカー」や「瀬戸大橋アンパンマントロッコ」が走る。駅弁の「アンパンマン弁当」「げんき100ばい! アンパンマン弁当」もそのひとつだ。

「アンパンマン弁当」はアンパンマンの体をかたどった容器に入っている。「げんき100ばい! アンパンマン弁当」の容器は、まん丸のアンパンマンの顔だ。大人も楽しい気分になる。そしてわくわくしながらフタを開けてみると……、あ、あれ? あんパンが入っていない! な、なぜだ!

ちなみに、あんパンは入っていなくても、どちらにもアンパンマンの顔は入っている。しかしそれはあんパンではなく、ケチャップライスで作られた顔だ。「アンパンマン弁当」のおかずは海老フライ、厚焼き玉子、ソーセージ、唐揚げなど。「げんき100ばい! アンパンマン弁当」のおかずは海老フライ、ポークウインナー、肉だんご、厚焼き玉子、さつま芋の甘露煮など。とってもおいしそうなんだけど、あんパンが入っていない。

なぜ、アンパンマン弁当にあんパンが入っていないか。販売元のステーションクリエイト東四国に電話で聞いてみた。同社はJR四国グループのひとつだ。

「アンパンマン弁当にあんパンが入っていないのはなぜですか」
「えっ……そ、それは、弁当だからです」
「弁当だからごはんですか、それはわかる気もしますけれど、パンのお弁当もありますよね。カツサンドなどサンドウィッチ系のお弁当とか」
「そうですね……」

じつは、「アンパンマン弁当」はステーションクリエイト東四国が考案した弁当ではない。かつて存在した「高松駅弁」という会社が開発した。この会社もJR四国グループだったけれど、業績が不振で2014年9月に解散した。高松駅弁が製造販売していた駅弁の高松駅構内販売と車内販売について、ステーションクリエイト東四国が継承した。ただし、駅弁の製造は岡山県で駅弁の製造販売を手がける「三好野本店」に委託している。

だからステーションクリエイト東四国はメニューごと継承したにすぎない。なぜあんパンが入っていないか、当時の担当者も不明とのことだ。しかし、現在の「アンパンマン弁当」「げんき100ばい! アンパンマン弁当」は、今年7月23日に内容を変更している。変更点はおかずの入替えで、ケチャップライスのアンパンマンはそのままだ。

「7月に内容を見直されましたけど、このときに疑問には思わなかったのでしょうか」
「はい……思いませんでした」
「弁当といえばごはんと、ご飯党なんですね。お箸の国の人なんですね」
「ははは、そうですね」

ちなみに、JR四国グループには主要駅の駅舎内や駅の近くで焼きたてパンの製造販売を手がける「ウイリーウィンキー」という会社もあり、そこではアンパンマンのあんパンを販売しているそうだ。駅弁にあんパンがない理由は、パン専門店との棲み分けかもしれない。また、内容を見ればデパートの食堂の「お子様ランチ」のイメージに近い。子供向けの駅弁として、お子様ランチを提供したほうが喜ばれるだろうと判断したかもしれない。

それに、「アンパンマン弁当」だからあんパンとしてしまうと、今後、シリーズ展開するときに困りそうだ。「しょくぱんまん弁当」には食パン、「カレーパンマン弁当」にはカレーパンを入れなくてはいけない。しかし「ばいきんまん弁当」を作っても、さすがにばい菌は入れられない……もちろん冗談だ。

事実として、「アンパンマン弁当」にあんパンは入っていない。これはぜひ覚えておきたい。アンパンマンのあんパンを食べたかったら、ウイリーウィンキーで買おう。

最後に、もうひとつ質問した。

「アンパンマン弁当にあんパンがない、というクレームはなかったんですか」
「はい、少なくとも担当の私は、お叱りをいただいたことはありません」
「あ、そうなんですか……」

皆さんも細かいことは気にせずに、おいしくいただきましょう。