ひたちなか海浜鉄道湊線は、茨城県ひたちなか市を走るローカル鉄道だ。JR常磐線の勝田駅と太平洋岸の阿字ヶ浦駅を結ぶ14.3kmの路線である。さらに線路を延伸し、国営ひたち海浜公園までの3.1kmを整備する計画がある。ところで、ひたちなか海浜鉄道は、もっと長大な路線の一部であり、世界の人々が利用しているという……って、どういうこと?

ひたちなか海浜鉄道に、長大な路線が乗り入れている!?

ひたちなか海浜鉄道は長大な路線の一部だ。どのくらい長大かというと、約2万1,000kmである。現在の湊線の約1,050倍である。国営ひたち海浜公園への延伸どころではない。この小さなローカル鉄道に、そんな野望があったとは知らなかった。約2万1,000kmといえば、そのまま東へ延ばし続けたらアメリカに到達し、また戻ってきそうな勢いだ。

その通り。約2万1,000kmの長大な路線はアメリカに到達している。ただし、鉄道ではない。光ファイバーによる日米間海底ケーブル「PC-1」だ。その経路の一部がひたちなか海浜鉄道湊線を通っている。ひたちなか海浜鉄道が2015年に発行した『湊線百年史』の第12章に、こんな記述がある。

平成12年NTTコミュニケーションズは、アメリカとの間の光海底ケーブルPacific Crossing-1(PC-1)を敷設し、阿字ヶ浦を陸揚げ場所に選択した。

それに伴って、平成11年度に、大手通信事業者3社(当時、KDDI、グローバルアクセス、ソフトバンクテレコム)と光ファイバーの長期賃貸契約を締結し、勝田~阿字ヶ浦間の線路脇にケーブルのトラフを敷設した。この賃貸料が湊線の重要な収入源になる。

つまり、ひたちなか海浜鉄道の線路の隣に、光ファイバーという「通信の線路」が通っている。

海底ケーブルの敷設は茨城交通が経営していた頃に行われた。ただし、賃貸料の収入があっても鉄道事業の収益は思わしくなかった。鉄道を存続させるため、2007年にひたちなか海浜鉄道として第3セクター化すると決まったとき、茨城交通は光ファイバー賃貸業務を含む鉄道事業部門を分社化した上で、その株式の半数をひたちなか市が取得した。ひたちなか海浜鉄道は現在も、線路の一部を「PC-1」に貸しているというわけだ。

日米を結ぶ光ファイバー「PC-1」(白地図専門店の素材「世界地図 (C)2006-2016, Sankakukei.」を使用)

ちなみに、「PC-1」は阿字ヶ浦から海底に潜り、アメリカ大陸ではワシントン州のシアトル郊外にあるハーバーポイントで陸揚げされている。その距離をGoogleMapの距離測定機能で調べたところ、最短経路で約7,500kmであった。また、「PC-1」は二重化されており、三重県の志摩とカリフォルニア州のグローバービーチを結ぶ路線がある。NTTコミュニケーションズの報道資料によると、4地点を結ぶケーブルの総延長が約2万1,000kmとのこと。「PC-1」の敷設当時の設計容量は3.2Tbpsだった。新技術の採用により、2013年に8.4Tbpsに拡張されている。

インターネットで北米大陸のWebサーバーにアクセスしたり、アメリカの友人とメールしたりしている人は、気づかぬうちにひたちなか海浜鉄道のお世話になっているといえそうだ。いや、日本やアメリカを経由して、世界中の人々の情報が、ひたちなか海浜鉄道の線路脇を通っているなんて、じつに愉快な話ではないか。