東京ビッグサイトにて東京モーターショーが開催中だ。斬新な技術やデザインを採用したコンセプトカーや販売予定の新車などに注目が集まっている。ところで、モーターショーには出品されていないけれど、鉄道ではユニークな自動車が活躍している。なんと道路を走るだけではなく、車輪を出して線路も走行できるという。どんな用途で使われているのだろうか?

京急電鉄が保有する軌陸車

タイヤと鉄道用車輪を装備する

道路と線路の両方を走行できる自動車は、鉄道業界では「軌陸車」と呼ばれている。鉄道の軌道と陸上の道路、両方に対応したクルマという意味だ。タイヤのそばに鉄道の車輪も装備されており、踏切などから線路の上に進入すると、車輪を降ろして固定し、線路を走行できるというわけだ。鉄道用車輪に動力を伝達する方式と、タイヤもレールに設置させて、タイヤの回転で走る方式がある。

そしてもうひとつ、転車台機能が付いている。車両の重心の床下から支柱を降ろし、それを軸として車体をくるりと回転させる。線路の上ではハンドルを切り返して方向を変えることができないので、この機能が重要だ。鉄道車両、保線用運搬車を連結するための連結棒を装備した車両もある。

小田急電鉄の軌陸車、転車台機能で向きを変えている

転車台の支柱を降ろしているところ

軌陸車は市販のトラックを改造して製作される。だから本体は街で見かけるトラックと同じだ。前面の運転席下には自動車会社のロゴやトラックのブランド名が残されている。改造の元となる車両はいすゞ自動車の「エルフ」、トヨタ自動車「ダイナ」、日野自動車の「デュトロ」などの小型トラックだ。

ただし、元となるトラックは市販車と同じでも、鉄道保線用車両として改造されているから、外観は特殊だ。軌陸車を製造、販売、レンタルする「軌陸車テック」のウェブサイトでは、三転ダンプ型、高所作業車、自積載クレーン、トラッククレーン、穴掘建柱車がラインアップされていた。

三転ダンプは、荷台を傾けて土砂を降ろせるトラックだ。一般のダンプカーは荷台の前方を高く上げて、後ろに土砂を降ろす。三転ダンプは荷台を左右にも傾斜可能だ。後ろと左右の3方向に傾くから三転ダンプ。線路用の砂利や、築堤の土などを、線路の両側に降ろせるというわけだ。

高所作業車は、クレーンの先に人を乗せるカゴを取り付けるタイプと、荷台に上下する作業台を設置するタイプがある。おもに架線の点検や張替え作業を行う。

自積載クレーンは荷台と積み降ろし用のクレーンを装備するタイプ。線路脇に設置する継電箱などを運ぶためのトラックだ。最近はホームドアの部品を運搬する場面も見られる。トラッククレーンは大型車両にクレーンのみ搭載するタイプ。自積載クレーンよりパワーがあり、保線作業だけではなく、鉄道車両が脱線した場合の復旧にも活躍する。

穴掘建柱車は、トラッククレーンの先端にドリルなどのアタッチメントを取付け可能だ。建柱という名前が示すように、架線柱の設置などで活躍する。

軌陸車はおもに保線作業に使われており、JRグループはもちろん、大手私鉄も保有している。私たちが普段見かけない理由は、保線作業が夜間に行われるからだ。列車を運行している時間帯に、工事対象の線路のそばまで道路で向かい、終電後すぐに作業を開始。始発列車までが活動時間となる。保線車両基地から保線用の鉄道車両を走らせるよりも、時間を節約できるというわけだ。

「DMV」は軌陸車の旅客用車両(※写真はイメージ)

もし軌陸車をじっくり観察したいなら、毎年10月頃に開催されている、鉄道会社の車両基地イベントに行ってみよう。軌陸車の作業を実演したり、高所作業車のカゴや作業台の乗せてくれたりする。

「軌陸車」のしくみを利用して旅客用車両も試作されていた。「デュアルモードビークル(DMV)」と呼ばれる車両で、古くは国鉄が試作車を作り、最近ではJR北海道が営業用試作車を作って、釧網本線で試験的な営業運行も行われたほか、全国各地のローカル線に貸し出された。JR北海道は正式な営業運行へ向けて努力していた。

しかし、同社の鉄道事故の多発と資金不足により、安全対策に経営資源を集中するため、DMVの開発計画は打ち切られた。ただし、国土交通省の鉄道部会は、「地方ローカル線活性化の可能性のひとつ」として評価しており、「デュアル・モード・ビークル(DMV)に関する技術評価委員会」を継続している。

軌陸車が保線作業にとどまらず、旅客や物流にも実用化できれば、クルマと鉄道の新しい関係が築けるかもしれない。

※写真は本文とは関係ありません。