8月30日に東京・青山で「ローカル鉄道演劇ナイト」が開催された。「ローカル鉄道演劇」は、走行中の列車の中で上演されるという斬新な演劇で、劇団・シアターキューブリックと鉄道会社のコラボレーション企画とのこと。いままでに銚子電気鉄道や樽見鉄道で開催されたという。

当日のイベントは演劇そのものではなく、舞台となった鉄道会社を招いて、過去の上映作品と制作の裏話の紹介、次回公演へ向けたエピソード披露、主題歌を担当したシンガーソングライターのオオゼキタクさんによるライブ演奏、鉄道写真家・衣斐隆氏の作品で次回作のロケ地の紹介など、盛りだくさんの内容だった。

東京のイベントで「ことちゃんグッズ」を発表!?

「ローカル鉄道演劇」は9月に「ことでん」こと高松琴平電気鉄道で、11月にひたちなか海浜鉄道で公演が行われる予定。それを記念して、ことでんの「ことちゃん」、ひたちなか海浜鉄道の「"黒猫"おさむ」にちなんだキャラクターグッズも発表された。

「ことちゃん」といえば、ことでんのイメージキャラクターとして有名だ。ことでんの駅員という設定で、Twitter公式アカウントでは、「……ですことこと。」「ぞぞー」というフレーズを連発し、インターネットを通じて世界にアピールしている。2013年、日本百貨店協会が開催した全国ご当地キャラ総選挙で堂々の3位入賞。同年から高松特別ゆめ大使も務めている。

ところで、いまさらだけど、「ことちゃん」はなぜ「イルカ」なのだろうか? ひたちなか海浜鉄道の「"黒猫"おさむ」は、那珂湊駅に住む実在の駅猫がモチーフになっている。でも、ことでんと「イルカ」が結びつかない。もちろんイルカを飼っている駅もない。そこで、会場を訪れていた「ことちゃん」のデザイナーに尋ねてみた。

「ことでんの存続の危機のときに、『ことでん要るか? 要らないか?』という話になったんです。『ことでん要るか?』の『いるか?』で、『イルカ』です」

ことでんキャラクター「ことちゃん」「ことみちゃん」(写真はことでん提供)

なんと、ダジャレ……いや、存続の危機? 要るか要らないか? かわいいキャラクターが誕生する背景に、そんな切実なエピソードがあったなんて。これは本当だろうか? デザイナーが言うからには本当だろう。でも確かめてみよう。

ことでん運輸サービス部の平尾さんによると、「ことちゃん」がイルカになった理由は、「ことでんの大人の事情! です」とのこと。その「大人の事情」を知りたいですことこと……と、食い下がってみると……。

「はい。デザイナーさんが仰ったことが事実です。皆さん驚かれるようですが、いままでも多方面で紹介していただいています」という答えだった。

高松琴平電気鉄道の危機は2001年12月。バブル経済崩壊で経営不振だった瓦町駅ビル「コトデンそごう」の倒産にともない、債務保証をしていた琴電本体の経営が破綻して、民事再生法を申請した。このときのエピソードが、写真集『ことでん 仏生山工場』の後書きにあった。経営再建の支援を求めて「ことでんは必要ですか?」と問いかけたところ、沿線の人々から「鉄道は要るけど、ことでんはいらない」という返事が目立った。地元の人々との信頼関係が希薄になっていると痛感したそうだ。

そこで自戒の意味を込めて、「ことでんは要るか?」の問いかけを忘れないようにと、民事再生後にマスコットキャラクターとしてイルカを採用した。「ことちゃん」は2002年8月8日に就任、2003年5月2日には恋人「ことみちゃん」の存在が公表された。ふたりは2011年11月18日に金刀比羅宮で結婚式を挙げた。地域キャラクターとしては珍しい夫婦設定である。

民事再生後のことでんは、鉄道・バスなどグループ全体でサービスを改善し続け、それを「ことちゃん」がPRしてきた。ちなみに、ことでんのICカード乗車券の愛称も「IruCa」(イルカ)だ。もちろん「ことちゃん」がデザインされている。ことでんのグッズも大人気で、ネットショップのほか、高松築港駅・片原町駅・瓦町駅・琴電琴平駅で販売中。LINEスタンプもある。「ことちゃん」も「ことでん」も全国的に知られるようになった。

なお、「ことちゃん」のTwitter公式アカウントでよく出てくる「ことこと」は、方言や電車の走行音ではなく、単なる「くちぐせ」。「ぞぞー」は、香川名物のうどんをすする音だ。ことでんによると、「ことでん、いるか?」のイルカに続き、「ことでん、いらないか?」のイカが登場する予定は……ないとのこと……ことこと。