2009年の年末、前原国土交通大臣がJR東海に対し「東海道新幹線の羽田空港乗り入れ構想」を打診したと報じられ話題になった。東海道新幹線の基地は大井埠頭にあり、田町駅付近の分岐点から芝浦経由で到達する。その線路を5kmほど伸ばせば確かに羽田空港に届く。これに対してJR東海は、現在の東海道新幹線の過密ダイヤを理由に難色を示したという。
より大きな地図で 鉄道トリビア 30 東海道貨物線 を表示
しかし、新幹線を伸ばさなくても、実はすでに羽田空港にはJR東日本の在来線規格の線路が通じている。いわゆる「東海道貨物線」だ。大井埠頭の新幹線車両基地に隣接した「東京貨物ターミナル駅」から南下して海底トンネルに入り、東京モノレールの車両基地のある昭和島を経由して羽田空港島に入る。首都高速の空港西インター、東京モノレールの羽田整備場駅、天空橋駅の地下を通り、多摩川を潜って川崎臨海部で地上に出て、鶴見で東海道本線と合流するという路線だ。
東海道貨物線は羽田空港島の西の端をかすめる形だが、整備場や天空橋あたりから分岐させれば、新国際線ターミナルや国内線ターミナルへ線路を伸ばせそうだ。新幹線規格の海底トンネルを新たに掘るより、こちらのほうがコストも安いはず。ちなみに、東京貨物ターミナル駅の海側には東京湾高速鉄道のりんかい線の車庫もある。線路の幅も電化方式も同じなので、この線路を結べばりんかい線経由で埼京線からも羽田空港へ直通できる。
さらに、東京貨物ターミナルの北から浜松町駅まで、休止中の貨物線がある。これを東海道線と結べば、東京駅から羽田空港行きの列車も設定できる。JR東日本は上野と東京を結ぶ東北縦貫線を建設しており、東海道線と東北本線、高崎線、常磐線を直通させる計画があるので、これらを結べば北関東地域から羽田空港へのアクセスが大幅に向上するだろう。
運輸政策審議会も「検討すべき」
以上は筆者の願望も混じっているが、東海道貨物線の旅客輸送については、「京浜臨海部再編整備協議会」が可能性を検討している。同協議会は過去に貸し切り列車を走らせるなど、国へアピールするなどの活動も行ったという。その成果もあって、運輸省時代の運輸政策審議会は2000年に「今後整備を検討すべき路線」(答申18号)して国に報告している。この答申18号では、西船橋付近で総武線千葉方面と京葉線東京方面を連絡する路線も挙げている。この路線を整備すれば、りんかい線と京葉線の線路は新木場駅付近で繋がっているので、成田空港と羽田空港を結ぶ列車の可能性も出てくる。
問題は、旅客列車が増大すると貨物列車のダイヤに支障が出ること。JR東日本としても、子会社の東京モノレールの営業に影響することを考慮するだろう。東京モノレールも将来は新橋駅や東京駅へ延伸する構想があるのだ。
運輸省は省庁再編によって国土交通省に改組されており、運輸政策審議会も消滅した。その業務は交通政策審議会が引き継いでいるが、首都圏の鉄道に関する新たな答申は出されていない。東海道貨物線の旅客化が実現するかどうかは未定となっいる。