JR京都駅は東海道本線と山陰本線、奈良線が分岐する駅。東海道新幹線も停まる主要駅だ。在来線0番のりばと30番のりばを合わせると「日本一長いホーム」となり、鉄道ファンに親しまれている。今回はそこではなく、5番のりばの話。東京方面へ向かい、ホームが途切れた先に時計がある。利用者からは見えにくい位置だ。この時計は何のためにあるのだろう?
この時計について、筆者の友人で漫画家の寺島令子さんがFacebookで紹介していた。
「京都駅5番線ホームと6番線ホームの間、上りの方向のはずれにある時計。乗客からは遠いので、運転士さんが見るためのものでしょうか? 古そうです」
寺島さんは現在、「マイナビ学生の窓口」で「ねこさまとおひとりちゃん」を連載中だ。PCゲームファンとしても知られていて、「週刊アスキー」で「日常の量り売り」を連載。かつてはパソコンゲーム雑誌「ログイン」で「墜落日誌」を連載していた。土木技術にも造詣が深く、SNSではときどき鉄道の話題も発信している。
Facebookの写真を見て、さらにGoogleマップを確認すると、確かに5番のりばの先、ホームから離れた場所にポール式の時計が立っていた。ストリートビューだと、京都駅構内を渡る府道115号線で、京都府鉄道本部鉄道警察隊の建物あたりから確認できた。
この時計について、寺島さんは「運転士さんが見るため」と予想している。たしかに機関車が停車する場所はホームにかからなくても良い。利用者が乗降する場所だけホームがあって、機関車がホームの先に止まる風景もよく見られた。しかし、鉄道の開業時から運転士も車掌も懐中時計を支給されていたはず。乗務の前の点呼で時計合わせをする。機関車や電車の運転台には、懐中時計を置くための凹みも作られ、いつでも時刻を確認できた。日本の鉄道のダイヤは、こうして正確に保たれてきた。
乗客のためではなく、乗務員のためでもない。では一体、あの時計は誰のために存在しているのか? JR西日本広報に問い合わせたところ、設置された当時の事情までは不明とのことだが、その後、社内の歴史に詳しい人に確認してもらったそうだ。その結果、だいたい次のような理由ではないか、とのことだった。
・京都駅に限らず、国鉄時代は車両基地や大きな駅の構内では時計塔が建てられた。
・目的は、構内の作業員に時刻を伝えるため。
・当時は、時計を持っていない作業員も多かった。
京都駅の当該の時計については経緯不明だけど、このような理由が考えられるようだ。正確な懐中時計は高価だから、すべての職員に持たせるわけにはいかない。しかし定時運行を守るためには、鉄道職員がすべて正確な時刻情報を共有する必要がある。したがって、つねに移動する乗務員に懐中時計を支給し、構内作業員のために時計塔を設置したのだろう。
京都駅の謎の時計はいつ設置されたかも不明だけど、現在も稼働している。撤去されないところをみると、きっと誰かがこの時計を頼りにしているのだろう。日本の列車ダイヤの正確さを示す記念碑的な存在かもしれない。