高額運賃が残念な北総鉄道だけど、乗ってみると楽しい。「スカイライナー」をはじめ、京成電鉄・京急電鉄・都営地下鉄などさまざまな電車が走る。普通列車も速くて気持ちいい。矢切の渡しの眺めもいいし、西白井駅付近から終点の印旛日本医大駅までの車窓は広々として……、あれ!? だけど何でこのあたりは空き地なんだろう?
線路際は騒音があるとはいえ、最近の電車は静かだ。ロングルールのおかげで継ぎ目の音も減っている。むしろ駅の近くなら大人気の土地だと思うけど……。
空き地の向こうの土地は少し高くなっている。この区間の北総鉄道は幅広の切り通しを通っている状態だ。この不自然な空間はいったい何だろう? 北総鉄道を複々線化するつもりだったか、あるいは単なる未開発の空き地か……。
成田新幹線の用地だった
その答えについて、6月24日の読売新聞が報じている。県が保有している成田新幹線建設用地について、大規模太陽光発電所に転用するという。対象となる土地は、「1967年に用地買収を始めた千葉ニュータウン内で、北千葉道路と北総鉄道に挟まれている全長約15km、幅10~20m程度の土地」(読売新聞記事より)とのこと。
なるほど、あの空間は成田新幹線を建設するために用意した土地で、成田新幹線計画が取りやめになったために、未使用のまま残ってしまったということか。たしかに日当たりは良さそうで、太陽光発電にはぴったりかもしれない。
成田空港は1966(昭和41)年に建設が決定し、1978年に開港した。東京都心から離れた場所のため、アクセス路線として東京駅と成田空港駅を結ぶ新幹線が計画された。1971年に政府によって計画が決定し、1974年に着工した。開業予定は1976年だった。ところが、用地買収がうまくいかず、予定通りに建設できなかった。成田空港自体も反対する人々が多く、反対派の一部は過激な行動を取るなど社会問題にもなった。
そして1983年、工事はストップ。1987年に国鉄が民営化され、JRグループが発足すると、計画自体が消滅してしまった。
東京駅の予定地は現在、JR京葉線の東京駅になっている。また、成田空港側に用意されたトンネルや土地は成田空港高速鉄道が継承し、JR成田線の支線と京成電鉄が使用している。北総鉄道の隣の空間は千葉県が用意したまま、更地として残っていたわけだ。
もうひとつ、鉄道路線計画があった
しかし、成田新幹線の予定ルートを見ると、つじつまが合わない部分がある。成田新幹線は東京駅を起点とし、越中島貨物駅付近を通過。これは現在のJR京葉線である。さらに現在の東京メトロ東西線に沿って北東へ進路を変え、北総鉄道とは小室駅の東側で合流する。だが北総鉄道沿線の空き地はこの合流地点の西側、西白井駅付近まである。ここから小室駅の東側までの約7kmは、新幹線計画とは関係ない。この空間は何のための土地だろうか?
その手がかりは千葉県のウェブサイトにあった。交通計画課の組織を紹介する部分で、「鉄道事業室」の項目に「東京都10号線延伸線新線(北千葉線)」の文字がある。この「北千葉線」こそ、北総鉄道西白井駅付近から北総鉄道と並んで建設される予定だった鉄道路線だ。
北千葉線は千葉ニュータウンと同時に計画された。人口が急激に増えると、北総線だけでは輸送量が足りない。そこで、もうひとつの都心連絡鉄道を建設しようというわけだ。多摩ニュータウンに小田急電鉄と京王電鉄が乗り入れた経緯に似ている。北千葉線の場合は東京都10号線、現在の都営新宿線に乗り入れる計画だった。
しかし、千葉ニュータウン計画が予定通り進まなかったため、北総線のみで輸送量は充分と考えられた。千葉ニュータウン乗入れ計画は停止され、都営地下鉄新宿線を本八幡駅から新鎌ケ谷まで延長する計画となった。それも巨額な建設費で採算が取れないと判断され、赤字の北総鉄道から乗客を奪いかねないとして、計画自体が廃止になった。
北総鉄道の隣にある空き地は、成田新幹線と北千葉線という、2つの鉄道路線の予定地だった。その空き地が、大規模太陽光発電施設に転用される方針だという。殺風景だった北総鉄道の車窓に、キラキラのソーラーパネルが広がることになるだろうか?
ちなみに、北総鉄道は現在放送中の『烈車戦隊トッキュウジャー』のロケ地でもある。悪役のシャドーラインは世界を闇に包もうとしている。闇に包まれたら太陽光発電は不可能だ。北総鉄道沿線の有効活用のためにも、みんなでトッキュウジャーを応援しよう!