京浜東北線と山手線は品川 - 東京 - 田端間で同じ区間を経由する。京浜東北線の北行は田町駅の南側で山手線の内回りをまたぐので、田町 - 田端間は同じ方向へ走る電車が並んでいる。さて、この2つの電車はどちらが速いのだろう。日中は快速運転する京浜東北線が速いが、それ以外の時間は……??
京浜東北線と山手線では、使用している車両が異なる。電車の性能を比較すれば答えは簡単なはず。そこで電車の性能を比較してみた。
山手線 | 京浜東北線(新型) | 京浜東北線(旧型) | |
使用車両 | E231系500番台 | E233系1000番台 | 209系0番台,500番台 |
編成数 | 11両 | 10両 | 10両 |
最高速度 | 120km/h | 120km/h | 110km/h |
起動加速度 | 3.0km/h/s | 2.5km/h/s | 2.5km/h/s |
山手線のE231系はJR東日本と東急車輛製造が共同開発した車両だ。国鉄時代に設計・製造された旧型電車と交代させるために作られた。基本設計は通勤型、近郊型(長距離区間用)など幅広い用途に対応する。500番台は山手線仕様車で、製造番号が500~となった車両だ。東海道線などで使われている1000番台に比べて、起動加速度が高くなっている。
京浜東北線の電車は新旧交代が進行中だ。2009年12月現在、新型のE233系と旧型の209系が混在している。新型E233系はE231系の後継機種で、主要機器を二重化して故障に強い車両となった。1000番台は京浜東北線仕様で、中央線に投入された0番台より起動加速度が高くなっている。新型のほうが性能が良いと思われるので、新型で比較しよう。
スペック上は山手線の勝ちだが……
最高速度は山手線E231系も京浜東北線E233系も同じ120/hだ。ただし、田町 - 田端間は駅間が短く、どちらも最高速度を出せる機会はない。そこで重要な数値は「起動加速度」だ。これは停止状態からの加速性能の指標で、単位はkm/h/s(キロメートル毎秒毎秒)。1秒あたり、時速何km加わっていくかを示している。
山手線の起動加速度は3.0km/h/sだ。これは、時速60kmに達するまで20秒かかることになる。一方、京浜東北線の起動加速度は2.5km/h/s。時速60kmに達するまで24秒かかる。したがって、山手線と京浜東北線では、山手線のほうが速いと言える。ちなみに東海道新幹線の最新型N700系の2.6km/hだから、東京駅を山手線と東海道新幹線が同時に発車したとすると、最初の何秒間かは山手線のほうが先行する場合もある。
ところが、実際に運行してみるとそう単純なものではない。各電車がいつもベストなスペックで走るとは限らないからだ。前方に列車が近づいていれば加速できないし、線路状況によって速度制限もある。そしてなによりも、列車は運行ダイヤを守って運転しており、スピード競争をしているわけではない。互いに相手の電車を見て「行け! 負けるな!」なんて思っているのは乗客のほんの一部だろう。
余談ながら、ミステリー作家、東野圭吾の小説『パラレルワールド・ラブストーリー』では、冒頭にこの山手線と京浜東北線の場面がある。主人公が、隣の電車に乗っている女性を好きになる……というところ。「同じ時間、同じ場所に居ながら関われない」というパラレルワールドの仕組みを、山手線と京浜東北線になぞらえている。隣の電車が気になる人にオススメだ。