東京~新大阪間の鉄道運賃を計算すると、新幹線を利用する場合は運賃が8,750円、特急料金が5,700円(「のぞみ」通常期)で、合計1万4,450円となる。特急料金を節約して、のんびりと在来線の各駅停車を乗り継いでいくと乗車券のみでOK。運賃は8,750円だ。
……いや、待てよ。新幹線と在来線では、新幹線のほうが距離が短いはず。どうして運賃が同じなんだろう? 新幹線の乗車券はもっと安くていいんじゃないか?
ちなみに時刻表で東海道・山陽新幹線の各駅を調べると、どの駅も東京駅からの距離は在来線と同じだ。東京~新大阪間の距離は新幹線も在来線も552.6km、東京~博多間は新幹線も在来線も1174.9kmとなっている。
地図を見れば明らかなように、東海道・山陽新幹線の駅間距離は、在来線の同じ区間より短い。在来線の距離はほぼ実測に沿った値になっている。しかし新幹線の実際の距離は、東京~新大阪間が515.4kmで、時刻表に表示された距離より37.2kmも短い。この距離で運賃を調べると、東京~新大阪間は実際より540円安くなる。新大阪~博多間も、実際の距離は553.7kmで、在来線の同区間より短い。
新幹線は「在来線に複線追加」という扱い
なぜ、時刻表の新幹線の距離は実際より長いのか? その理由は、新幹線と在来線が並行する場合、実際の線路の距離にかかわらず、在来線と同じ距離をもとに運賃を計算するという規則だから。時刻表の距離の表示を見てみよう。距離の表示は「営業キロ」と書いてある。営業用、つまり「運賃の計算に使う距離の数字ですよ」というわけだ。
この「営業キロ」という考え方は、ほとんどの鉄道会社で採用されている。その他に「運賃計算キロ」「擬制キロ」などもあり、実際の距離で運賃を計算する鉄道会社のほうが少ない。なぜかというと、実際の距離を用いると運賃計算がややこしくなるから。極端な話をすると、山手線の内回りより外回りのほうが距離が長いはずで、それを運賃に反映すると、行きと帰りできっぷの値段が変わってしまうかもしれない。複線区間で、上り線と下り線が離れている場合も距離に差ができる。
東海道・山陽新幹線の場合、別の路線ではなく「在来線に新しく追加した複線」という考え方だ。かなり大胆に離れたルートとなっているけれど、在来線と新幹線は「同じ路線」と見なされる。これはJR各社の旅客営業規則に明記されている。旅客営業規則第16条の2では、「次の各号の左欄に掲げる線区と当該右欄に掲げる線区とは、同一の線路としての取扱いをする」とある。対象となる線区は表に示した通り。
(1) | 東海道本線、山陽本線中神戸・新下関間 | 東海道本線(新幹線)及び山陽本線(新幹線)中新神戸・新下関間 |
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(2) | 東北本線 | 東北本線(新幹線) |
(3) | 高崎線、上越線及び信越本線 | 高崎線(新幹線)、上越線(新幹線)及び信越本線(新幹線) |
(4) | 鹿児島本線中博多・新八代間及び川内・鹿児島中央間 | 鹿児島本線(新幹線)中博多・新八代間及び川内・鹿児島中央間 |
これ以外の新幹線区間は、実際の距離に近い営業キロが設定されている。たとえば東北新幹線の盛岡~新青森間だ。並行在来線の旧東北本線盛岡~青森間が第3セクターに転換されてJR東日本の在来線ではなくなったため、「同じ路線」と見なせなくなった。
したがって、表題の「東京~博多間、新幹線と在来線の距離が同じってホント?」に対する答えは、「運賃計算に関してはホント。実際の走行距離は違う」となる。
1975年、乗客のひとりが当時の国鉄に対し、「東海道新幹線で実際の距離より長く見せかけて運賃を取るとはけしからん」と、差額運賃の返還を求めて裁判を起こした。東京地方裁判所は原告の訴えを認め、国鉄に対して運賃の返還を命じた。しかし東京高等裁判所は国鉄の「営業キロの決定は国鉄の裁量内である」という主張を認めた。その後、国鉄は営業規則の書き方に不備があったとして、内容を改め、時刻表の表記も「キロ数」から「営業キロ」と明示した。これがJRの旅客営業規則にも継承されている。
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