2014年は「午年(うまどし)」だ。「午」という漢字は駅名に使われていないけれど、「馬」は日本全国すべての駅で使われている。なぜなら、「駅」の字をよく見ると、「馬」が入っているから……、という冗談はさておき、「馬」が付く駅名は多く、干支で最も多く使われている。
鉄道の駅名に馬の名前が使われる理由は、そこが鉄道開通以前から馬に関係する場所としての機能があったから、と言えそうだ。「駅」はもともと、「驛」と書いた。この字は「馬」へんに、「たぐりよせる」という意味のつくりを当てている。このつくりの読みが「エキ」。つまり、「驛」は馬をたぐりよせるところを表していた。人類が馬をてなづけたとき、移動にあたって馬を休ませる場所が「驛」であり、人間にとっても宿や休憩所であった。
古代の日本や中国では、街道を整備する際、一定の間隔で「驛」が定められ、町が発達したという。「驛」が「駅」と略字となった理由は、読みの「エキ」が共通していたから。一方で、街道の節目であり、「尺」という長さの単位に通じるという理由があったかもしれない。「駅」があって、馬のおかげで発達した町は、馬にちなんだ町名になる。そこへ鉄道を通し、発展した町に駅を作れば、自然に駅名は馬にちなむ、というわけだ。
ただし、馬の付く駅がすべて宿場ではない
現在、日本の鉄道駅で「馬」が付く駅は62駅、「駒」を含めると84駅ある。宿場に由来する駅といえば、東京メトロ日比谷線の「小伝馬町駅」がある。この地域は宿場が多く、かつて江戸時代に「伝馬」という制度があった。次の宿駅まで馬で人や荷物を運ぶもので、タクシーやトラック配送のようなしくみ。この伝馬が多い地区を「大伝馬町」、馬が少ない地区を「小伝馬町」といった。
「馬場」は軍馬を調教する場所で、「高田馬場駅」(JR山手線・西武新宿線・東京メトロ東西線)などの由来となっている。京急電鉄の「新馬場駅」は、「北馬場駅」「南馬場駅」という2つの駅を統合した駅名だ。このあたりの品川宿は、幕府の要人が旅するときに馬と人足を提供していたため、宿場の南北に大きな馬場があったという。
ただし、地名としての「馬場」には、「崖」という意味もあり、馬とは関係ない場合もあるそうだ。「駒込」「馬込」の場合、「馬が集まるところ」という説に加え、「道がこまごまと入り組んでいる」という意味で字を当てたという説もある。
他にも、宿や軍馬に関係ないのに「馬」が付く駅名がある。競馬場にちなんだ駅は「大井競馬場前」(東京モノレール)など7駅。群馬県には県名を冠した「群馬●●駅」が5駅ある。「駒ケ岳」は山肌に馬の模様が現れることに由来し、実物の馬と直接的な関係はない。JR富良野線の「美馬牛(びばうし)」はアイヌ語の当て字で、本来は「ピパウシ」。沼に貝が棲むところだそうで、馬とは関係ない。もっとも、開拓時代の人々にとって馬は大切なパートナーだっただろうから、当て字に「馬」が使われたのだろう。
ところで、2013年は「辰年」から「巳年」になるということで、東京メトロ有楽町線「辰巳駅」が話題となった。辰巳駅には両方の干支をデザインした記念撮影ボードと記念スタンプが設置されていた。
今年は「巳年」から「午年」。これにちなんだ縁起切符として、上信電鉄が名乗りを上げている。同社には「巳」(へび)にちなんだ「南蛇井駅」駅と、「午」(うま)にちなんだ「馬庭駅」がある。南蛇井駅から馬庭駅までの片道運賃は710円だ。そこで上信電鉄では、このきっぷの子供用(360円)と、馬庭駅の入場券(170円)を硬券でセットとした「馬庭駅記念きっぷ」を530円で販売している。