電車が頻繁に停車する駅で、ホームに着いたら、ちょうど電車が行ってしまったところだった。次の電車を待つ間、なんとなく周囲を眺めていると、頭上でなにかがひらめいた。……いや、別にイイことを思いついたわけではない。本当に頭上のランプが点灯したのだ。このランプが一体何なのか、疑問に思ったことはないだろうか?

ホームの番号を示す「2」の上にあるランプ。何のためにあるのだろう?(写真はイメージ)

乗客にとっては意味がわからないランプだけに、乗客になにかを伝えるためではなく、鉄道係員になにかを知らせるランプなのだろう。さっきは消えていたはずたけど、気がついたら点灯している。一体どんな役割があるのか、不思議な存在だ。電車が走り去ってしばらくしてから点灯するので、電車の動きとは関係ないのかもしれない。でも、「電車の運行に関係ないランプ」とはどういうことだろう……?

しばらく観察してみると、このランプは電車が発車し、ホームから走り去ると消える。やっぱり電車の動きに関係しているようだ。「電車がホームにいますよ」という意味だろうか? そんなことはランプを使わなくてもわかるし、しばらく待っていたら、電車がいないホームで点灯した。ますます不思議である。

じつは駅の出発信号機と連動している

駅のホームでいつの間にか点灯するランプ。名称は、「出発反応標識」という。その役割は、車掌や駅係員らに出発信号機の状態を知らせることにある。列車の動きに連動するのではなく、駅構内の端、運転士から見える「出発信号機」と連動している。

このランプは出発信号機と連動していた(写真はイメージ)

列車が発車すると、出発信号機は赤色になる。このとき、ホームにある出発反応標識のランプは消える。次の列車が発車できる状態になると、出発信号機は黄色または青色になり、同時に出発反応標識のランプも点灯するというわけだ。

列車が発車するときには、車掌が運転士にブザーなどで合図を送る。このとき車掌は、「列車が発車できる状態である」と確認する必要がある。確認項目は、「発車時刻になっているか?」「出発信号機が赤ではないか?」「扉はすべて閉まっているか?」など。

このうち、出発信号機については車掌から確認できない場合がある。出発信号機は駅の出口側に設置されており、運転士にとって見やすい位置だ。小さな駅では車掌からも確認できる距離になる。しかし、ホームが長かったり、ホームがカーブしたりしていると、車掌がいる位置からは出発信号機が見えないことも多い。

そこで、「出発信号機が赤ではない」という情報を、車掌やホームに立つ駅員が確認できる場所に表示する必要がある。これが出発反応標識の役割といえる。

そんな面倒なしくみにしないで、たとえば出発信号機と同じ信号機を、車掌用・駅員用としてホームに設置すればいいのでは? と思う人もいるかもしれない。しかし、鉄道の信号機は他にも、閉塞区間の入口に置く「閉塞信号機」や、駅構内で使う「場内信号機」などがあり、これらと混同されるおそれがあるし、そもそも同じ意味を持つ信号機を、本来の役割とは離れた別の場所にいくつも置いては誤認の可能性もあって危険だろう。そうした事情もあり、「信号機」ではなく「出発信号に反応する標識」ということになっているようだ。信号機を補助する役割を持っているけれど、出発反応標識は信号機そのものではない。

出発信号機は運転士にしか見えなくても、出発反応標識があれば駅員や車掌も情報を共有できる。出発反応標識が点灯していない場合、出発信号機は赤だから、駅員や車掌は発車合図を出してはいけない。点灯するまで、車掌は扉を閉めずに、乗客の乗降りに便宜を図ることもできるだろう。発車時刻を過ぎていれば、指令所に問い合わせるきっかけにもなる。

ちなみに、運転士は出発信号機を見て、「出発進行」と声を出して確認する。車掌の場合は反応標識を確認しているから、「出発進行」ではなく「反応進行」となる。