鉄道関連の博物館に欠かせない展示といえば、鉄道模型のジオラマ。大都市のデパートなどで開催される鉄道模型フェアでも、大規模なジオラマの展示が目玉になることが多い。

日本の鉄道模型はNゲージが一般的。今後さらに小型化へ向かう!?(写真はイメージ)

鉄道模型の場合、新幹線と在来線の列車が同じ線路を走行できる。本物の鉄道だと、線路の幅や電化方式が違うので、これは不可能だ。鉄道模型なら新幹線と路面電車も同じ線路を走れるし、日本製と海外製の車両も同じ線路を共有できる。実際の線路の規格は世界各国でバラバラでも、鉄道模型なら、国籍や製造会社が違っても同じ線路で仲良く走らせられる。

その理由は単純だ。鉄道模型は世界共通の規格で作られているから。「玩具だし、電化製品だし、当たり前のことじゃないか」と思うかもしれない。しかし、実際の鉄道を知れば知るほど、鉄道模型のしくみは不思議……いや合理的といえる。

海外ではHOゲージが普及

クルマ、飛行機、船、鉄道などの乗り物は、模型愛好家にとって格好のテーマだ。しかし、この中で鉄道だけは特殊な存在といえる。クルマは単体で走行できるし、飛行機や船も単体で成立する。だからメーカーや縮尺が異なっていても、棚に並べて楽しめる。もちろん鉄道模型も飾っておく分には同じ。しかし、線路を走らせるとなると、各メーカーがバラバラの軌間で作ってしまっては具合が悪い。

そこで、「どの模型メーカーが作っても、同じ線路を使えるようにしよう」と話し合いが持たれたそうだ。そして採用された規格が、19世紀末にドイツ・メルクリン社が作った4つの規格だった。これらは大きさの順に0番、1番、2番、3番ゲージと呼ばれた。このうち最も普及した規格は0番ゲージだ。0(ゼロ)をアルファベットのO(オー)に見立てて、「オーゲージ」とも呼ばれる。Oゲージは線路幅が32mm。レールは3本あり、車輪が使う2本のレールの間にもう1本のレールを置く。これは駆動方式が三相交流電源だったからだ。

Oゲージは車両の縮尺が1/48から1/43程度。1/48といえば、現在も飛行機模型の縮尺の主流となっている。このサイズは車両工作を楽しむには最適ということで普及した。しかし、長い編成の列車を走らせようとすると広い場所が必要だ。

そこで1921年、飾るより「走らせる楽しみ」を目的とした「HOゲージ」がイギリスで定められた。HOゲージの名については、「Oゲージの半分(Half)」のほかに、「HomeサイズのOゲージ」との説もあるという。線路の幅はOゲージの半分の16.5mm。縮尺は約1/87から約1/80となった。この規格の呼び名として、「OOゲージ」(オーオーゲージ)もあったけれど、現在は「HOゲージ」が定着している。

HOゲージの登場当初は、Oゲージに比べて小さすぎたため、車両の品質が一定しなかったという。しかし、その後の技術改良や大量生産時代を迎えて、HOゲージが最も普及した。欧米では現在もHOゲージが定番となっている。当初、駆動方式は3線式の交流だったが、後に直流小型モーターが開発されると、線路2本で済むようになった。日本の博物館などで採用されるジオラマ展示も、HOゲージが主流だ。

日本ではNゲージが普及

欧米では、「Oゲージが大きすぎるから」との理由でHOゲージが普及した。日本でもしばらくはHOゲージが主流だったけれど、日本の住宅事情では「HOゲージでも大きすぎる」ということになり、新たにNゲージが注目された。

Nゲージの歴史も古く、ルーツは1912年のドイツ製だった。しかしHOゲージの影に隠れてしまい、普及していなかった。当時は「Nゲージ」という名前もなく、線路幅9mmから「9mmゲージ」、あるいは「OOOゲージ」などと呼ばれていた。

9mmゲージは、日本において1960年代にトミーが玩具として販売し、ソニーが9mmゲージの試作品を作った。1965年、関水金属が縮尺1/150で9mmゲージの本格的鉄道模型を商品化すると、日本ではこのサイズが普及した。

HOゲージ時代の鉄道模型は高価で、「走る宝石」ともいわれ、お金持ちの趣味だった。しかし、9mmゲージは日本のプラスチック成形技術の発展とともに車両の低価格化が進み、誰もが楽しめる趣味に近づいた。1970年代になると、トミーが本格的鉄道模型として再参入した。9mmの「9(Nine)」から「Nゲージ」という愛称も定着した。現在、日本ではNゲージが最も普及している。

小型化への技術革新はさらに進み、1972年にドイツのメルクリンが線路幅6.5mmの「Zゲージ」を発表した。車体にはカメラの連射シャッターに使う超小型モーターを採用したという。長らく普及が足踏みしていたZゲージだが、2007年に天賞堂と東京マルイが製品化。新たな規格として注目されている。

同じ線路幅でも縮尺が異なる

自動車や飛行機、モビルスーツなどのプラモデルは、縮尺ごとにコレクションする愛好家が多い。しかし鉄道模型は縮尺に幅がある。HOゲージは1/45から1/48、Nゲージは1/150から1/160となる。その理由は、実際の鉄道のサイズを共通規格の線路幅に合わせるためだ。だからNゲージでも、新幹線は1/160、在来線は1/150となる。そのおかげで同じ線路を共有でき、駅などのアクセサリーも共有できる。

ジオラマでリアルな情景を再現するなら、厳密には新幹線の車体はひと回り大きいはず。もっとも、1/150も1/160もサイズの差は気にならないほどだ。HOゲージの頃は、日本の在来線用のサイズとして、線路幅12mmの「HOjゲージ」などが提唱されたこともあるという。世界には他にも鉄道模型の規格がたくさんある。しかし、多くのメーカーが参入したHOゲージとNゲージが最も普及し、製品の価格も下がり、また普及するという好循環を続けた。

「互換性」「共通化」「標準化」は、1980年代のコンピューター黎明期のキーワードだった。最終的にIBM/PC互換機が標準となってパーソナルコンピューターが普及し、今日のデジタル社会の基礎となった。鉄道模型業界はそれを19世紀末から実践してきたともいえる。