トンネルや鉄橋、高架、築堤など、鉄道と道路は似た構造を持つ施設がある。もちろん通過する車両が違うから、大きさなどは違う。信号機のように、同じ3色のライトを使っても、使い方や意味が異なるものもある。そんな違いのひとつにトンネル内の照明がある。道路トンネルはつねに明るいけれど、鉄道トンネルの照明は基本的に消灯だという。

鉄道のトンネルは真っ暗なイメージが強い

この話を教えてくれたのは、肥薩線の人吉機関区で出会った元機関士さんだ。「SL人吉」が人吉駅で折り返す際、転車台付近を見学できる。そこでさまざまな話を聞くことができた。ちなみに当連載第204回で、「肥薩線が筑豊炭鉱向けの坑木を輸送していた」と書いたけど、この話のネタ元も人吉機関区の元機関士さんだ。

「鉄道のトンネルは明かりをつけないんだ。運転士の目がチカチカしちゃうから」

道路のトンネルは明かりがあって、車を運転していると光の帯が飛んでいるようにみえる。それを見て、きれいだなあと思ってはいたけれど、そういえば、列車に乗っていても、トンネルの中は真っ暗だったような……。

「でも、トンネルの中にも蛍光灯があったような……」
「あれは保線用でね。保線工事が終わると消さなくちゃいけない」
「……なるほど!」

現在は照明つきのトンネルも多い

以来、トンネルに入るたびに気になって様子を見ると、たしかに照明を消したトンネルは多い。非常灯のみ点灯したり、照明はあっても道路のそれよりずっと間隔が広かったりする。これが、元機関士さんの言う「運転士の目がチカチカしない」程度の明かりだろう。

地下鉄のトンネルは比較的明るい

でも、地下鉄ではトンネル内で照明が使われる路線もある。動画投稿サイトにアップされた前面展望動画などを見ると、日本の地下鉄は照明がついていることが多い。「必ず消さなければならない」というわけでもなさそうだ。

じつは、トンネル内の照明をつねに使用する区間もある。きっかけは1972(昭和47)年の北陸トンネル火災事故。列車が火災を起こし、トンネル内で停車。避難誘導の不手際から多数の死傷者が出た。理由のひとつに、トンネルの照明が消灯だったことが挙げられるという。

この事故の反省から、5km以上の長大トンネルでは照明を使うようになった。古いトンネルの中には、建設時から照明器具を設置していない例もあるようだ。もともと使う予定がないから、当然かもしれない。一方、新しいトンネルだと、非常灯のほかに照明を設置している路線も多い。後から照明を設置したトンネルもある。その中には、照明の位置を低くして、運転士の目線から離し、歩く人の足もとを照らすよう配慮されたトンネルもあるようだ。

ちなみに、トンネルの照明といえば、のと鉄道(石川県)はクリスマスの時期限定で、トンネル内にイルミネーションを設置している。イルミネーションがよく見えるようにと、列車内の照明を消し、減速運転も実施しているとか。なかなか粋なはからいである。