見慣れた光景でも、ふと疑問に思うと気になって仕方がない。鉄道にもそんな光景がある。例えば線路に敷いてある石はなんのため? レールは列車が走るために必要だし、枕木はレールの間隔を保つために必要だろう……ここまでは解るけど、アノ石の役割は何だろう。
あの石、実はクッションなのだ
線路に強いてある石はバラストという。バラストの役割を知りたいなら、踏切などで線路の様子を観察してみよう。列車が通過するとき、線路がぐっと沈み込むように見えるはずだ。硬そうな鉄のレールが、列車の重みで下にゆがむ。バラストは、その荷重を支える役目をしている。つまり、バラストは線路のクッションになっている。
硬い石がクッションになるとは意外だ。しかし、硬くて丈夫な鉄筋コンクリートだって地震ではたわむ。脆く崩れやすい石もあれば、ダイヤモンドのように硬い石もある。石は素材によって硬度が異なるから、適度な硬さの石を使えば、何tもの荷重に対してクッションとして利用できるというわけだ。石の大きさにも理由がある。大きくスライスした石では荷重が分散しづらくてクッションとして機能しない。大人の握りこぶしくらいの大きさがちょうど良い。石を積み上げて、お互いに複数の点で接しているからこそ、列車の重さを分散してくれるのだ。
また、石を積み上げた構造は水はけを良くする。レールは鉄だから錆びやすいし、木製の枕木は水に長時間浸されると腐りやすい。バラストのおかげで線路は腐食しにくくなっているともいえる。だから、岩石をわざわざ砕いて敷いている。ちなみに石を積む高さにも規定があって、JRの場合は新幹線が30cm、在来線の幹線が25cm、在来線の支線が20cmとなっている。バラストが厚いほど重い列車や速い列車に耐えられる。しかし、バラストを厚くするほど材料や設置時間が増えて費用が増える。だから、重量級の列車が走る幹線は厚め、ローカル線では薄めに敷いてある。もちろん、ローカル線であっても、重量級の貨物列車を運行する路線では厚めに敷いてある。
バラストがないとどうなるかというと、列車の荷重が地面に直接伝わって、地面を破壊し、そのうちに線路自体が沈下してしまう。また、乗り心地も悪くなる。地面が硬い場合は列車の衝撃が反力となって戻ってくるので、車体がゴツゴツと突き上げられる。路面電車の古い車両に乗っていると、足元からゴツゴツと衝撃が来ることに気付くはずだ。その衝撃を和らげるために、車体のサスペンションを改良する必要がある。バラストがないと、車両のコストも上昇してしまうのだ。