211系といえば、国鉄からJR東日本やJR東海などに継承された中距離用近郊形電車。JR東日本所属車両は東海道線や房総方面から撤退し、今春より長野方面にも活躍の場を移している。とくに貴重となった車両が、いまや高崎線のみ存在するグリーン車。じつは211系のグリーン車は、ある条件で「日本初」の名誉を持っている。
211系のグリーン車が記録した「日本初」とは、「JR在来線規格の2階建て車両」だ。JRの在来線は国際的には狭軌とされているため、実質的には、「狭軌の普通鉄道による世界初の2階建て車両」ともいえる。該当車のサロ212とサロ213は1989年の登場で、JR東日本になってから増備された基本編成に組み込まれていた。
2階建て車両の歴史を振り返ると、フランスでは19世紀初頭に乗合馬車の2階建て車両が誕生している。これがイギリスに導入され、1851年にバスに移行した。ロンドンの赤い2階建てバスの始まりだ。
イギリスでは2階建て路面電車も導入されていたので、2階建て車両の導入も自然な成り行きだったろう。イギリス領だった香港では、1904年から現在まで2階建て路面電車を運行している。1930年代になると、フランスでは通勤型客車の2階建て車両が運行された。ドイツやアメリカにも事例はある。しかし外国の列車は多くが標準軌だ。
日本の2階建て鉄道車両のルーツも意外と古く、1904(明治37)年に大阪市電が2階建て車両を導入している。2階建てといっても屋根上に椅子を取り付けて簡易な屋根を載せたものだった。路面電車以外の普通鉄道では、1958年に近鉄が初代ビスタカーを導入した。近鉄はこれ以降、伝統的に2階建て特急車両を導入している。最新型の「しまかぜ」も中間のカフェ車両が2階建てだ。ただし、大阪市電も近鉄も標準軌だった。
京阪電車の旧3000系特急車にダブルデッカーが追加されたのは1995年から。2階建て車両といえば新幹線にもあり、東海道・山陽新幹線の100系の2階建て中間車は1985年に誕生した。東北新幹線200系の2階建てグリーン車は1990年から。これらも標準軌だ。
客室ではなく、運転室が2階という点では、名鉄7000系パノラマカーも一部2階建て構造といえる。7000系も狭軌の車両だった。だがフロア単位で2階建ての客室の車両となると、211系グリーン車のサロ212とサロ213が初と言っていいだろう。共通設計で導入された113系のグリーン車、サロ124とサロ125も2階建て。湘南色の113系に銀色のグリーン車が導入された理由は、211系の製造が始まってから増備されたからであった。