近畿日本鉄道は3月21日より、新型観光特急「しまかぜ」を運行開始する。大阪と名古屋から、式年遷宮を迎える伊勢を経由して賢島へ。ガラス張りの展望車やワンランク上のサービスが特徴だ。その近鉄といえば、列車の運行管理システムの名前がかっこいい。もちろん「しまかぜ」もそのシステムの管理下に入るのだ。

近鉄の新型観光特急「しまかぜ」は3月21日より運行開始

列車運行管理システムといえば、コンピュータを用いて列車の位置を表示し、進路(信号機や転てつ器など)の自動制御や運転指令業務の支援、各駅での旅客案内などを行うシステム。決められたダイヤ通りに列車が運行しているかを監視し、トラブルがあれば回復のため、運転士や駅員らにさまざまな指示を出す。

こうしたシステムはJRや大手私鉄を中心に導入されている。近鉄もしかり。大手私鉄の中でも最大の路線網を持つ同社においては、大阪側と名古屋側を管轄する2つの運行管理システムがそれぞれ稼働している。その名前がとってもかっこいい。大阪側は「KOSMOS(コスモス)」、名古屋側は「KRONOS(クロノス)」という。まるでSFやアニメの宇宙管制システムのようだ。

「KOSMOS」はギリシャ語で秩序を表す言葉。もっとも、ゲーム好きにはRPG『ゼノサーガ』シリーズに登場する女性型アンドロイド「KOS-MOS」のほうが有名かも。「KOS-MOS」の声優は鈴木麻里子さん。彼女の声で近鉄電車が制御されたら……、なんて妄想してしまう。この「KOSMOS」が由来とされ、宇宙などを意味する「COSMOS」になると、『ウルトラマンコスモス』をイメージする。天文学者カール・セーガン氏が制作し、日本でも放送されたドキュメンタリー番組もある。

「COSMOS」はJR東日本の新幹線運行管理システムの名称でもあり、「Computerized Safety, Maintenance and Operation systems of Shinkansen」の略。「KOSMOS」は、「Kintetsu Oriented Signal and Monitor Operation System」の略で、直訳すると「近鉄集中型信号運行管理システム」となるだろうか。JR東日本のほうは、「コンピュータ化された新幹線の安全、維持運用システム」と直訳できる。どちらも粋な命名である。

「KRONOS」は「Kintetsu Rapid Operated New Original System」の略で、直訳すると「近鉄独自の操作性に優れた新しいシステム」。無理矢理な気もするけれど……、名前がかっこいいから、働く人もうれしいはず。これはギリシャ神話に登場する翼を持った時間の神「CRONOS」に当てはめたようだ。「C」を近鉄の「K」にしている。

「KRONOS」のままで同名語を探したら、KORG製のミュージック・ワークステーションや、フランスのデスメタルバンドがヒットした。「デスメタルバンドと同じでいいのか!?」とも思うけれど、名前がかっこいいからいいか(笑)。「クロノス」で検索すると、『スタートレック』シリーズに登場する惑星やマツダの4ドアセダンがヒット。懐かしい。

話を近鉄に戻すと、大阪側の「KOSMOS」は1992年頃から稼働しているという。現在は難波線・大阪線(西青山駅まで)・京都線・奈良線・橿原線・天理線・信貴線・南大阪線・長野線・御所線が対象線区となっている。名古屋側の「KRONOS」は2010年4月から稼働した。大阪線(東青山~伊勢中川間)・名古屋線・山田線・鳥羽線・志摩線・湯の山線・鈴鹿線と、かつて近鉄だった養老鉄道線の一部が対象になっているという。

2つのシステムの境界線は近鉄大阪線の西青山駅と東青山駅の間。ここは布引山地を貫く新青山トンネルがあり、全長5.6kmで私鉄最長。大阪からの「しまかぜ」も通るこのトンネルが、まさに近鉄の東西を分ける境界といえるだろう。