高架化が完成した京急線の京急蒲田駅付近の区間に乗ってみた。最上部の下り線からの車窓は見晴らしがいい。ところで、ある駅で線路を見ると、いままでの形とちょっと違う。コンクリート製の枕木が極端に少なく、従来の枕木より広い間隔で鉄パイプが敷かれてある。どうやら線路に革新が起こっているようだ。

バラスト・ラダー軌道(神戸電鉄)

防振装置式フローティング・ラダー軌道(南海)

従来のような枕木を使わず、鉄パイプでレールの間隔を保持する。この新しい線路の名前は「ラダー軌道」という。ラダーは梯子(はしご)の意味。たしかに真上から見ると梯子のような形をしている。開発は鉄道総合技術研究所で、ラダーマクラギの製造会社は安部日鋼工業、伊岳商事の2社、施工は清田軌道工業と、軌道工事のエンジニアリング会社が担当している。2002年頃から神戸電鉄有馬線湊川~長田間やJR横浜駅構内、小田急線成城学園駅構内などで施工されているそうだ。

関西での施行実績が多いラダー軌道

ラダー軌道について清田軌道工業に取材した。まず、ラダー軌道には大きく分けて2種類あるという。「バラスト・ラダー軌道」と「フローティング・ラダー軌道」だ。前者はバラスト(砂利)を敷いた線路、後者はコンクリート路盤で採用されている。

「バラスト・ラダー軌道」のメリットは保守の省力化だ。バラストは車両の荷重を分散させるクッションの役目を持ち、少しずつ沈み、石の角が欠けて小さくなっていく。だから定期的にバラストの交換やかさ上げが必要になる。ラダー軌道の場合、線路にかかる荷重を広いラダーマクラギで分散させることにより、バラストの沈下や細粒化を遅らせるという。

バラスト・ラダー軌道の断面図。防振材のあるタイプとないタイプがある

バラスト・ラダー軌道の上面図。鉄パイプ部分が線路の間隔を保持。沈下対策として端部閉合梁が設置される

「フローティング・ラダー軌道」のメリットは環境性能の向上だ。ラダーマクラギで荷重を分散させるだけでなく、ラダーマクラギの下、コンクリート路盤の間にゴムを用いた防振装置やポリウレタン防振材を挟むことで、騒音と振動の軽減できるとのこと。「フローティング・ラダー軌道」には、防振装置や防振材の設置方法により、「防振装置式」「L形台座式」「ダクタイル台座式」などがある。

フローティング・ラダー軌道(防振装置式)の断面図。コンクリート路盤とマクラギの間に防振装置がある。その他、路盤の形によって「L形台座式」「ダクタイル台座式」などがある

フローティング・ラダー軌道(防振装置式)の上面図。線路間がスッキリしている

清田軌道工業によると、関西では南海電鉄、京阪電鉄や神戸電鉄で施工実績が多いとのこと。筆者が見た京急電鉄は伊岳商事が手がけたという。そこで伊岳商事に、他にはどこで見られるか聞いてみた。関東の私鉄のほとんどの路線で採用されているが、線路の継ぎ目や踏切の下など、ピンポイントの実績が多く、外から見える部分は少ないそうだ。長距離施工区間としては京急電鉄・京急蒲田駅付近の立体交差区間、小田急電鉄の多摩川橋りょうをはじめとする線路改良区間が挙げられるという。

ラダー軌道は静かで振動が少なく、夜間のバラスト補修作業回数が少ない。これは鉄道沿線の人々にとってうれしい存在だ。また、列車の乗客に快適な乗り心地を提供する。今後、私たちの身近な線路は少しずつハシゴ(ラダー)状に変わっていくかもしれない。