かつての江戸を囲むようにぐるっと走る地下鉄、都営大江戸線。車庫を含めたすべての線路が地下にある。じつは地下鉄といっても、都営大江戸線のように完全に地下区間だけを走る電車は珍しい。東京メトロ銀座線・丸ノ内線は地上区間があるし、他の地下鉄路線の電車も、乗り入れ先の路線で地上に顔を出すことが多い。
しかし、ずっと地下を走る都営大江戸線の電車の運転席窓にはワイパーが付いている。いったい何のためだろうか?
ちなみに他の路線と相互直通運転を行わず、全区間地下という鉄道路線は他にもある。大阪市営地下鉄四つ橋線・千日前線・長堀鶴見緑地線・今里筋線、名古屋市営地下鉄名城線・名港線・桜通線、札幌市営地下鉄東豊線、神戸市営地下鉄海岸線などだ。これらの電車も運転席の窓ガラスにワイパーを備えている。
雨は降らなくても水滴は落ちる
全区間が地下にあり、雨や雪の心配もない。そんな車両にワイパーが必要だろうか? 素朴な疑問だけど、その答えは意外にあっさり解決した。あるとき、なんとなく都営大江戸線で運転席の後ろから前方を眺めていたら、運転士がワイパーを動かした。ワイパーの動いた後に、小さな水滴が延びていた。
なるほど、雨は降らないけれど、トンネル内では水滴が落ちる場合があるようだ。とくに夏場は電車のエアコンが稼働し、車内の湿気が外に排出される。トンネルの壁は夏でも冷たいらしいから、そこで結露し、落ちてくるのだろう。
その他にもワイパーが活躍する場面はあるらしい。洗車機を通過した直後の視界を確保するため、そして地上部分に車両基地があるためだ。都営大江戸線は車両基地も地下にあるけれど、車両の定期検査は馬込にある浅草線の車両工場で実施する。ここは地上だ。
また、走行中に小さなホコリや、どこからか紛れ込んだ小さな虫が当たる場合もある。これらを除去する目的でも、しばしばワイパーを稼働させているようだ。
都営大江戸線の電車にて、運転席の窓ガラスを見るとワイパーが当たる部分は透明で、ワイパーが届かないところはちりなどで汚れていた。透明なガラスは、雨に当たらなくても少しずつ汚れていくのか。なんだか教訓じみた感想を持ってしまった……。