高校時代に体験した乱射事件を機に人生が変わってしまった、一人の女性のドラマを描いた『ダイアナの選択』。あくまでも"乱射事件"ではなく、ある重大な事件をきっかけに人間が受ける影響を描きたかったと監督バディム・パールマンも語る本作は、監督自身が原作を読んだ時に感じたという「全編が少女たちについての歌のよう」という印象にふさわしい、まるで少女が朗読する詩のような作品です。
一人の美しい少女がターコイズカラーに輝くプールに飛び込む─ 予告編が始まるのは、そんなまばゆいばかりの色鮮やかな世界。 これこそがかつて誰もが一度は過ごす、"青春"という名の映像です。
「これぞ人生ね」
ブロンドと美貌が人目を引く彼女の名前はダイアナ、地味な親友はモーリーン。 抱き合って写真を撮ったり一緒にトイレへ行ったり、二人の女子高生はおそらく親友。どこにでもありそうな、学校生活ですが、突如、その普通の情景を崩壊させる機関銃の銃撃音が響き渡ります。 突然現れた銃を持った青年が二人に尋ねる一言。
「どっちを殺す?」
手を繋ぐ二人─そして暗転。 鏡越しの暗転を拭ったのは大人へと成長したダイアナ。あの乱射事件から15年の時が過ぎ、一児の母となって、幸せな日々を過ごしています。 そんな何度かスイッチする現在と高校時代の映像のあと、ぽつん、と、ある文章が現れます。
"どっちを殺す?"
そしてこう続きます。
"彼女の答えが引き金になり 新しい人生が始まった、"
ここで一瞬、文章は止まります。そして間を置いてもう一言が付け足されます。
"はずだった。"
一体、新しい人生の何がどう狂ったのでしょうか? 引き金となった彼女の答えとは一体、どんなものだったのでしょうか? 興味を掻き立てられる投げかけです。最後に、ダイアナとモーリーンのこんな台詞で締めくくられます。
「いつ始まるの?」
「何が?」
「私の人生」
こんな小さなやりとりがいかに尊く、象徴的なことか。本作は何気ないやり取りの中に、結末へと繋がるキーワードが散りばめられています。
この予告編は、日本でオリジナルに製作されたもの。高校時代の映像の比重の多いアメリカ版と比べると、日本版は大人になったダイアナが17歳の頃を回想している印象が強いものとなっています。配給したデスペラードの担当者に話を聞いてみると
「この作品はラストをどう受け止めるかが鍵。何かを匂わせようと意図して予告編が製作されました」とのこと。日本ではまだエヴァン・レイチェル・ウッドよりユマ・サーマンの知名度の方が高いということ、また、大人になったダイアナからの視点から観る方が話の筋として判りやすいという点からこのような予告編が作られました。サスペンス的要素の強いアメリカ版とはうって変わり、色鮮やかな花々といった本編で使用されているイメージ要素を取り入れたこの日本版の予告編は、監督もお気に入りなのだとか。
本作で若い頃のダイアナを演じたエヴァン・レイチェル・ウッドですが、監督が最初から若い頃のダイアナ役は彼女に決めていたというだけあって、若さをもてあまし、同級生からもはみ出した、光り輝くばかりのヒロインを好演しています。
エヴァン・レイチェル・ウッドと大人になったダイアナを演じたユマ・サーマンは似ていませんが、面白いのは、学生時代のダイアナの母親と大人になったダイアナが似ていることと、高校時代のダイアナと、後のダイアナの子供が似ていること!なんとなーく血の繋がりを感じます。また、親友のモーリーンを演じたエヴァ・アムーリは、なんと名女優スーザン・サランドンの実娘。地味で控え目ながらも心の奥底に勇気を秘めた少女を熱演しています。
最近とみに増えた「結末は秘密にしてください」という煽りが好きではない私ではありますが、それでもこの予告編を選んだのは、スローモーションの場面の使い方がとても巧い! と思ったから。
もちろん、予告編は劇中のシーンから抜き出して作られていますが、この抜き出されたスローな映像の配分がとてもバランス良く思えます。若い頃がただそれだけでどれほど美しく輝かしいかを知るのは、随分時を重ねてから。このスローモーションはその重ねた時間の重みのようにも思えるし、あの頃のまま時を止めたいという刹那的な願望のようにも思える。
それほど、このスローモーションは、本作において意味深いモノに思えます。予告編の中でも使用されている"一人の女性、二つの人生。"という本作のコピーも実に感慨深いものですが、少女の選択が、一体どんな未来を形作るのか。あなたが劇場でこの物語を完結させてください。
かつらの予告編★ジャッジ
内容バレバレ度 | ☆☆ |
---|---|
本編との共鳴度 | ☆☆☆☆☆ |
じんわり感慨深い度 | ☆☆☆☆ |
STORY
郊外の美しい住宅で優しい夫と愛する娘と幸せな生活を送るダイアナ。しかし、彼女は17歳の時に高校で起こった銃乱射事件の記憶に今でもさいなまれてた。事件当時、親友のモーリーンと一緒だったダイアナは、銃乱射事件の犯人に機関銃を突きつけられる。「どちらを殺す?」と迫られたその時、彼女が選んだのは……。
(C)2008 2929 Productions, LLC.
春錵かつら(はるにえ・かつら)
映画予告編評論家 / ライター
CMのデータ会社にて年間15,000本を超える東京キー5局で放送される全てのCMの編集業務に3年ほど携わる傍ら、映画のTVCMについてのコラムを某有名メールマガジンにて連載。2004年よりフリーライターとして映画評論や取材記事を主とした様々なテーマを執筆しながらも大手コンピュータ会社の映画コンテンツのディレクターを務めたのち、ライター業に専念、現在に至る