80歳の姿で生まれ、時を重ねるごとに若返ってゆくという不思議な運命を背負った男、ベンジャミン・バトン。
『セブン』『ファイト・クラブ』に次ぎブラッド・ピットとは3度目のコラボとなるデヴィット・フィンチャー監督が、寓話的要素に溢れるこの物語に見事にリアリティを息づかせ、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』を完成させました。
まずは特報からご覧下さい。
台詞は、たったの3つです。
「私はベンジャミン・バトン。とても不思議な人生を送った。誰もが老いていくのに─私は若返っていくのだ。独りだけ」
観客の心を鷲掴みにする不思議な告白と共に一秒戻る大時計の秒針。
戦場で走る兵士の姿が巻き戻され、一人の赤ちゃんが登場。
彼がベンジャミン・バトンだろうな、と誰もが思う。
それからはその赤ちゃんは外界に憧れ、母親にお風呂に入れてもらい、少女と出会い、仕事につき……恋や自立、そして男として腹をくくる時を普通の人間の人生と同じように経験していく映像なのですが…
時間がうつろいゆく中で一人だけ、ベンジャミン・バトンだけが若返ってゆくという違和感。
そしてやっと2つ目、3つ目の台詞。
「あなた、とても若いわ」
「見た目だけさ」
余白の美とでも申しましょうか、少ない台詞で「時間」というとてつもなく抽象的で、とてつもなく明確な存在を荘厳に感じ取らせる予告編です。
そして、本予告。
こちらは女性のナレーションで始まります。
「人生は驚きの連続」
そして特報バージョンと同じく、ベンジャミン・バトンの台詞。
「私はベンジャミン・バトン。人とは違う運命の元に生まれた─」
捨てられた赤ん坊を見つけ驚く男女、その後に
「赤ん坊なのに80歳の老人の体だ」
と医者が一言。
本予告ではブラッド・ピット演じる主人公ベンジャミンのナレーションが進むその合間に彼自身の経験、そして出逢う人々の台詞が盛り込まれています。
そんな中、特に印象的な台詞がコレ。
「誰もが自分は人と違うと思うもの。でも行き着く先は同じ。通る道が違うだけよ。」
ここで登場人物たちの台詞以外に、主人公ベンジャミンと共にナレーション的役割を果たしている女性の声は、実の親に捨てられた彼を拾い育てた養母クイニー(タラジ・P・ヘンソン)です。信心深く柔軟な思想を持った母親の愛情あってこそ、ベンジャミンの人生が美しく素晴らしいものになったことは言うまでもありません。
そして予告編の終盤。
「残念だな、永遠のものがないなんて」
「あるわ」
そうしてベンジャミンの頬に触れるのは最愛の女性、デイジー(ケイト・ブランシェット)。どの時もその頬に触れる指のあたたかさは変わらなかったはず。まさにそれこそが「永遠」なのです。時折近づき、交差し、遠くにいても途切れない二人の関係は、「愛」という言葉が陳腐に感じられてしまうほど深く繊細な絆。
人とは異質な人生を送ることとなったベンジャミンですが、全ての映像がまるでベンジャミンだからこそ見ることができたんじゃないかという美しい映像となっています。どの時代でも優美でしなやかなデイジー、荒波なのに神々しく見える海、対して周りの見えない極寒のロシアの暗がり、そしてロウソクに照らされたテーブルクロスなどの無機質なモノでさえも。人一倍「時間」という稀有な一瞬一瞬を愛しんでいるであろう彼が、大切に瞳に焼き付けたかのような柔らかく輝いた景色を、是非堪能してください。
そして、個人的にも特筆したいのが特殊メイクアップの技術。年齢に比例して刻まれるシワやシミ、肌のたるみはさることながら、そのリアルな質感には呆然としたほど。地味でありながら丁寧で精密な仕事は、劇中でベンジャミンとデイジー本人たちがぶつかる「わずかな時間しか重ならない反比例する年齢の壁」を観客にも感じさせるために、素晴らしい役割を果たしています。劇的な変化ではなく、本当に少しずつ、そして確実に年齢が移りゆくのを見事に表現したそのメイクは、観客たちが意識する以上に、同じ時間を進んでゆけない切なさを、ジワジワと意識下に訴えかけてきます。
そうそう、最近とみに増えた映画の冒頭に流れるフィルムメーカーのロゴ・ムービー。
ワーナー・ブラザーズは、その製作年代や作品によって映画冒頭のロゴをアレンジしている作品が多く、いつも楽しみにしていますが、今回もとても洒落た演出で必見!ですのでお見逃しなく。
2009年2月7日(土)より丸の内ピカデリーほか全国ロードショーです。
(C) 2008 Paramount Pictures Corporation and Warner Bros. Entertainment All Rights Reserved.
かつらの予告編★ジャッジ
内容バレバレ度 | ☆☆☆ |
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本編との共鳴度 | ☆☆☆ |
ジワジワ感動度 | ☆☆☆☆ |
春錵かつら(はるにえ・かつら)
映画予告編評論家 / ライター
CMのデータ会社にて年間15,000本を超える東京キー5局で放送される全てのCMの編集業務に3年ほど携わる傍ら、映画のTVCMについてのコラムを某有名メールマガジンにて連載。2004年よりフリーライターとして映画評論や取材記事を主とした様々なテーマを執筆しながらも大手コンピュータ会社の映画コンテンツのディレクターを務めたのち、ライター業に専念、現在に至る