2008年度第5回本屋大賞と第21回山本周五郎賞のW受賞、「このミステリーがすごい! 2009年版」第1位を獲得した伊坂幸太郎の大ベストセラー『重力ピエロ」がいよいよ映画化です。まずは予告編をどうぞ。
「春が2階から落ちてきた」
2階の窓から飛び降りる弟・春(岡田将生)とそれを見上げる兄の泉水(加瀬亮)。予告は泉水の語りから始まります。春先の澄んだ青空と桜のほのかなピンク色、そんな美しい景色をバックに春の身体が宙に投げ出される印象的なシーンです。
さて場面は一転、春と泉水、家族の食卓を映し出します。そこに流れる放火事件のニュース。最近仙台市内では連続放火事件が起こっているようです。そんな中、放火のルールに気付く春。現場近くに残されたグラフィティアートの頭文字が遺伝子配列を使った暗号だと泉水に告げます。
謎の男(渡部篤郎)の「俺は生まれてこの方、何も反省することなんてしてないんだよ」というつぶやきに被せて、メッセージ・兄弟・ピカソの生まれ変わり・浄化・ジョーダンバット・過去・99.7%…と次々と意味不明の言葉が浮かび上がります。これらのキーワードは、果たして何を表しているのでしょう。そして、ガラスの割れる音。
よみがえる、24年前の事件
というコピーの直後、S.R.Sが歌う主題歌「Sometimes」が流れ出します。
美しかった母とシャボン玉で遊んだ思い出、家族4人でサーカスを見に行った思い出が映し出され、空中ブランコをするピエロの姿を最後に、予告編は終了します。ラストで挿入される父親の台詞と、母親と一緒に見た空中ブランコをするピエロの姿、この二つの要素で『重力ピエロ』というタイトルを見事に表しきっている巧みな予告編です。 予告編の後に挿入される原作者、井坂幸太郎のメッセージも必見です。
映画本編は予告編と同様、「春が、二階から落ちてきた」という衝撃的な台詞で始まりますが、原作でも同じようにこの泉水の言葉で物語が始まります。配給のアスミックエースの担当者の話によると、この「春が二階から落ちてきた」という冒頭の一文は、原作ファンの反応も良く、本編の最初の4分間からの映像をうまく予告で使用し、最初の"掴み"としたとか。家族の愛を描いた作品ですが、中心となるのは2人の兄弟なので、2人のキャラクターを際立たせたいという点に気をつけて制作されたそうです。
さて、本作鑑賞後に嬉しい驚きがありました。それは、最後に流れる主題歌が、物語が終わって流れ出すメロディとして絶妙にハマっていたこと。まるで観客が目にする事ができない物語のその後のシーンが脳裏に浮かぶようでした。雰囲気も音も、そしてメロディもぴったりなので是非、主題歌をきちんと聴き終わってから劇場を後にするのがオススメ。この主題歌は予告編でも途中から挿入されています。S.R.Sの「Sometimes」。メロディアスなギターのキラキラした感じが、この物語の世界観になんともピッタリマッチしています。映画鑑賞後に聞くのとまた印象が違うはずです。
本作の予告編には2曲が使用されていますが、曲のつなぎ方には特に苦労したというエピソードも。本作の空気感にピッタリなこの主題歌を予告中に使用するのは決まっていたそうですが、問題はどう繋ぐか。ミステリー部分の導入シーンと、後半の家族愛の感動をアピールするシーン、曲をつなぐための様々な案が試行錯誤され、現在のガラスが割れる音をきっかけに一転する方法が決定したそうです。
映画が既存の小説など原作に作られた場合、映画を先に観るか、原作を先に読むかで好みが分かれますが私は断然、"原作後派"。人間の想像力に、映像の力は敵わないと思っているからです。本作は映画化されるとは思わず先に原作の方を読んでしまっていたのですが、小説の映画化で一番気になるのは、なんと言っても「誰が演じるか?」ではないでしょうか。
そこで注目したいのは弟・春を演じた岡田将生。小説を読んで勝手に想像した配役の中に彼の名前はありませんでしたが、これがなかなかハマリ役。弟の甘えんぼ具合と、少し神経質そうな綺麗な顔立ちは、思い描いた春に限りなく近く、必見です。
コピーの「家族の愛は、重力を超える。」ですが、"重力"とは「地球が物体を引きつける力」。この作品の持つ重力が、きっとあなたを引きつけるはずです。
かつらの予告編★ジャッジ
内容バレバレ度 | ☆☆☆☆ |
---|---|
本編との共鳴度 | ☆☆☆ |
じんわり感銘度度 | ☆☆☆☆ |
『重力ピエロ』
大学院で遺伝子の研究をする兄の泉水と、街の塀やシャッターに残された落書きを消して回る弟の春。2人は、仙台の街で起こる連続放火事件と、現場近くに必ず残されるグラフィティアートの関連性に気付き、事件の謎を解こうと乗り出す。それがやがて24年前から今へと繋がる家族の謎を明らかにしてゆく。
監督:森淳一
出演:加瀬亮、岡田将生、小日向文世、鈴木京香、渡部篤郎 ほか
2009年5月23日(土)より全国ロードショー
春錵かつら(はるにえ・かつら)
映画予告編評論家 / ライター
CMのデータ会社にて年間15,000本を超える東京キー5局で放送される全てのCMの編集業務に3年ほど携わる傍ら、映画のTVCMについてのコラムを某有名メールマガジンにて連載。2004年よりフリーライターとして映画評論や取材記事を主とした様々なテーマを執筆しながらも大手コンピュータ会社の映画コンテンツのディレクターを務めたのち、ライター業に専念、現在に至る
(C)2009『重力ピエロ』製作委員会