「映画予告★コンシェルジュ」でついに邦画が初登場です!今回ご紹介するのは『フィッシュストーリー』。原作者は最近著書が立て続けに映画化されている伊坂幸太郎。パンクバンド"逆鱗(ゲキリン)"の楽曲「フィッシュストーリー」が、巡り巡って地球を救う……!? という物語が、鮮やかな音響や映像となってスクリーンに登場です。タイトルにもなっている音楽プロデュースを担当した斉藤和義による書き下ろしの楽曲「FISH STORY」も必聴ですよ。

一見パンクロック映画?と思うかもしれませんが、本作は音楽映画ではありません。予告編は売れないバンド、"逆鱗"による「フィッシュストーリー」のスローなイントロから始まります。

宇宙を背景にまずデカデカと現れるのがコレ。

発売当時、誰にも聞かれなかった曲 「FISH STORY」が、地球を救う!

そして閑散とした街並と日本の上空に見える、尾を引いた巨大な彗星を一瞬映し、

2012年 地球滅亡まであと5時間

スローな導入部から一転、激しいメインパートが始まります。まずは

地球滅亡まであと30年 気の弱い大学生

濱田岳演じる気の弱そうな大学生の紹介シーンが展開します。続いて

地球滅亡まであと3年 女子高生と正義の味方

シージャックに遭う女子高生と、正義の味方になりたかったというフェリーのコックが現れます。そして最後は

「FISH STORY」が生まれた年 早すぎたパンクバンド

なんとなく売れていなさそうなパンクバンドが「FISH STORY」を生み出す様子を映し出します。そしてそれぞれの時代の登場人物たちを再度映し出し、ここでナレーション。

「4つの時代の別々の出来事が、ひとつの曲で繋がった時、想像もできない何かが起こる」

宇宙に浮かぶ地球をバックに、4つの時代が呑み込まれていきます。

レコード会社からクビを告げられた逆鱗が最後に録音したのが「フィッシュストーリー」だった

映画で軸となるのは主に4つの時代。

  • 1975年、最後の曲「FISH STORY」をレコーディングした早すぎたパンクバンド、"逆鱗"
  • 1982年、運命の予言を聞いた気の弱い大学生
  • 2009年、シージャックに巻き込まれた女子高生と「正義の味方になりたかった」フェリーのコック
  • 2012年、彗星の地球衝突まであと5時間

さて、ここで皆さんお気づきでしょうか?チラシや紹介記事などでは上記のようなそれぞれの年号が記されているのに、予告編では殆ど年号が出てこないことを。これはこの映画の予告編製作の際に意図されたものなのです!

この作品を配給したショウゲートの担当者のお話では「予告編は何回も読み直せるチラシなどとは違い、一度で通り過ぎてしまうもの。製作のラフ段階で男性のスタッフは年号を入れたほうが良いという意見が多かったのに比べ、女性は年号などにあまり興味が無く頭に入りづらいという意見が多かったので、あえて年号は記さずに「地球は滅亡まであとX年」「"FISH STORY"が生まれた年」などといった言葉にした」そうです。実に面白いエピソードです。

また、「宇宙から見たら、地球の30年前も3年前もなんら変わらない。予告編の最後は地球で終わりたいという気持ちがあった。それぞれの時代に生きる人たちがささやかな努力をして、本人の気づかないところでつながっていき、結果的に地球という大きな存在に力を及ぼす。そんなユニークな物語の時系列をはっきりさせるために、2012年の“地球滅亡”を軸に置いて、30年前、3年前と時代をさかのぼった上で、“地球を救う鍵となる曲が生まれた年”につなげるようにした」とのこと。

本編では時間軸が行ったり来たりという形で描かれていますが、確かにこの予告編ではそれぞれの立ち位置が明確になるよう、時代を遡る形で紹介されています。

後半部分には、右から左へと場面を流しながら切り替えていくワイプと呼ばれる演出や、異なる時代をマルチ画面で映し出す演出などを使って、ここでも時間経過を映像的に表現する工夫をしています。監督やプロデューサーにラフを見せ、3案ほどある予告編から1案をベースに他の案の良いところを採り入れ製作されました。予告編製作に当たりプロデューサーとは特に綿密に話し合われたのだとか。

殆どの人が、どんな作品でも予告編を観てその映画に足を運ぼうか決めるということから、それだけの影響力を持つ予告編にはかなり注力しているとおっしゃるだけあり、情報が整理され、とても判り易く、それでいて鑑賞欲も刺激するトレーラーとなっています。

最後は大森南朋の

「『フィッシュストーリー』がいつか世界を救うんだよ。あってもいいんじゃないかな、それくらいのことが」

という台詞で予告は終わります。「音楽」が、しかも殆ど知られていないバンドの「一曲」が地球を救う。あってもいいんじゃないかな、それくらいのことが。この映画を観た私の感想はまさにこうでした。

さて肝心の本編ですが、それぞれの時代の主役とも言うべき伊藤淳史、高良健吾、濱田岳、多部未華子、森山未來はいずれも実に魅力的。個人的には森山未來の正義の味方っぷりに悩殺! 加え、本作はエンディングもオープニングも素晴らしくドラマティック。「フィッシュストーリー」で始まり、「フィッシュストーリー」で終わる。ただの点と点が一瞬でスルリと直線でつながるような、予告でも謳われている「爽快なラスト」を是非堪能してください。

シージャックに遭遇してしまう女子高生に多部未華子

ヒーローになりたかったコックを森山未來が好演

4つの時代の登場人物たちは、当然運命のつながりを各々が知る由もありません。知るのは神様のみ。この運命のつながりを目にする観客もまた、神の目線で地球の運命を見守ります。コレを読んでいるあなたも、そして劇場で隣に座った彼女も、前の席に座ったおじさんも、何十年も前の知らない土地で人生を過ごした誰かも、ひょっとしたら巡り巡ってどこかで繋がっているかもしれないし、これから繋がるかもしれない。 そんな人生の醍醐味と奇蹟を信じたくなるような素晴らしい一作です。


STORY

1975年、セックス・ピストルズがデビューする1年前。最後のレコーディングで「FISH STORY」を世に放った、早すぎたパンクバンド"逆鱗"。1982年、気弱な大学生。2009年、シージャックに巻き込まれた女子高生と正義の味方になりたかったフェリーのコック。全く接点の無い彼らが、ひとつの曲でつながり、2012年、滅亡から地球を救う─!?

2009年3月20日より渋谷シネクイント、シネ・リーブル他にて全国ロードショー


(C)2009「フィッシュストーリー」製作委員会

かつらの予告編★ジャッジ

内容バレバレ度 ☆☆
本編との共鳴度 ☆☆☆☆
スカッと爽快度 ☆☆☆☆☆

春錵かつら(はるにえ・かつら)

映画予告編評論家 / ライター

CMのデータ会社にて年間15,000本を超える東京キー5局で放送される全てのCMの編集業務に3年ほど携わる傍ら、映画のTVCMについてのコラムを某有名メールマガジンにて連載。2004年よりフリーライターとして映画評論や取材記事を主とした様々なテーマを執筆しながらも大手コンピュータ会社の映画コンテンツのディレクターを務めたのち、ライター業に専念、現在に至る