映画を観る前に必ずといっていいほど目にするもの、目にしてしまうもの……そう、それは予告編。

日本国内で公開される映画の作品数は洋画・邦画合わせて年間約800作品。これら全てに予告編がつくとは限らないけれど、1作品で劇場版、web版、TV版の予告編があったり、違うパターンで数種類展開されたり……と考えるとその数は膨大なものになるんです。

ボケーっと見ているTVドラマの合間、ビール片手にゆったりくつろいで観るために借りてきたDVDの本編開始前、そして大切な誰かとデートで訪れた映画館の、まだヒソヒソ声がひしめく銀幕の中に、否応ナシに目に飛び込んでくる予告編、予告編、予告編!!!

中には「ああ、この人が恋人と喧嘩して、事故に遭って、記憶喪失になって、最後に記憶を取り戻すって話でしょ」なーんて、映画を観る前にあらすじが全部判っちゃうモノもチラホラ。ちょっとこれはいただけませんよね。

あるいは「ラスト、衝撃のどんでん返し!」なんてナレーションに期待しすぎて、本編観たら「あれ? そんなどんでん返しでもないよね??」なんて拍子抜けしちゃったり。

しかし、その映画のカラーや作品の質にぴったりマッチした秀逸なものや、時として映画本体よりもデキがいい!? なんてびっくりなものさえあるのも事実。映画予告編自体が独立したひとつの作品であるといっても過言ではないくらい。

さて、私が思う予告編に求めるべき姿は

  1. 盛り込むストーリーの内容は本編より出来る限り謙虚であれ!

  2. しかし本編を見たいと思わせるツカミや装飾は、より魅惑的であれ!

というわけで、内容ダダ漏れの予告編は軽やかにスルーし、

「この映画観たいっ!!!」

と思わせる魅力的な作品の数々を、熱く語っていこうと思いマス。

記念すべき第一回目は『007/慰めの報酬』。

通算第22作目となる007シリーズ最新作は前作「007/カジノ・ロワイヤル」から1時間後の物語。そんなわけで前作と今作『007/慰めの報酬』は切っても切り離せない間柄なのです。さっそく予告編をご覧いただきましょう。

「これは007が誕生するまでの物語」というフレーズと共にモノクロで始まり、重厚な007のテーマ曲をBGMに繰り広げられる前作「007/カジノ・ロワイヤル」の予告編から一変、 照りつける太陽と砂漠、そして

「恋人を殺されて復讐を考えない男」

という印象的なセリフから始まる今作。そして007の象徴ともいうべき一発の銃声……。前作「007/カジノ・ロワイヤル」でも序盤の一発の銃声が象徴的に使われていましたよね。

静かなプロローグから徐々に速度を増して飛び込んでくるのがエレキギターの音色。お馴染みの007のテーマソングです。淡々としたボンドと他の登場人物たちのやりとりから、息をもつかせぬアクションシーンへとじりじり、じりじりと刹那を詰めていく予告編、同時に高まるそれを見ている私の鼓動!

見終わった瞬間、「この映画観たい!」と思わず口に出てしまったのは言うまでもありません。

公開が待ちきれないワクワク感です

予告編にはオリジナル版に字幕をつけたものと、日本で新たに制作するものがありますが、『007/慰めの報酬』の予告編は前者。実はこの予告編、本国アメリカの映画サイトの予告編ランキングで堂々1位に輝いたほど、評判は上々なのだそうです。

それも納得、予告編のラストで昇りに昇り詰めたスピード感は、観る者の手に汗を握らせつつ、映画本編のオープニングへとスムーズに導いてくれます。

予告編で「早く観たい!」という気持ちは最高レベルに達し、そのまま映画本編が始まると瞬きすら出来ないほど息を呑む序盤が待ち構えています。そしてスタイリッシュなオープニングテーマ曲までの流れは、うーん、実にお見事! 予告編を見て映画を観たくなるのはモチロンですが、映画を観た後に再び予告編を見てもらえれば、高まる加速度がスムーズに映画本編に導いてくれているのをご理解いただけるはず!

歴代ボンドの中でも、ティモシー・ダルトンが演じた4代目ボンド以来の人間臭いボンドを演じているダニエル・クレイグ。新ボンドに決定した当時はボンドファンからは猛烈な反対運動が起こりましたが、そんなバッシングも「007/カジノ・ロワイヤル」で一蹴。初の金髪碧眼のジェームス・ボンドは、今作でオープニングの興業成績も歴代のボンドシリーズのナンバーワンに輝き、名実共に「ベスト・オブ・ボンド」となりました。

そして土臭さというか、あどけなさの残る異色のボンドガール、カミーユを演じるオルガ・キュレリンコがとってもキュートで必見です。

金髪ボンドに ボンドガールの黒髪がよく映える

あ、ボンドのコードネームでありタイトルにも使用されている「007」ですが、過去の作品で002や003など他のナンバーの00要員もきちんと登場しています。ちなみに「ダブルオー・セブン」が正しい呼び方とされていますが、日本では7作目までは「ゼロゼロセブン」という読み方で公開されているので、1970年代にショーン・コネリーのボンドを観ていたお父さん、お母さん、はたまた会社の上司が「ゼロゼロセブン」と言ってもあながち間違いではないのであしからず。

ちなみにうちの母は「やっぱりボンドはショーン・コネリーだわ~」と言っているので、当然我が家は「ゼロゼロ」派。

1月17日(土)18日(日)先行上映決定。1月24日(土)より丸の内ルーブルほか全国ロードショー。

かつらの予告編ジャッジ

内容バレバレ度
本編との共鳴度 ☆☆☆☆
ハラハラドキドキ度 ☆☆☆☆☆
※最高は五つ星です

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春錵かつら

映画予告編評論家 / ライター

CMのデータ会社にて年間15,000本を超える東京キー5局で放送される全てのCMの編集業務に3年ほど携わる傍ら、映画のTVCMについてのコラムを某有名メールマガジンにて連載。2004年よりフリーライターとして映画評論や取材記事を主とした様々なテーマを執筆しながらも大手コンピュータ会社の映画コンテンツのディレクターを務めたのち、ライター業に専念、現在に至る