明治時代に建てられた古民家。映画の中で舞台となった建物だ

神秘的な山林に囲まれる土地、富山県。そこには古より伝わる、伝説の世界があることをご存じだろうか。2012年7月、『おおかみこどもの雨と雪』なるアニメが映画公開された。19歳の少女が「おおかみおとこ」と出会い、その間に生まれた「おおかみこども」の姉弟の成長から自立するまでの13年間が描かれている話題となった作品だ。

そしてその舞台となった民家が、富山県の上市町に今なお現存するのだ。ヒスイ探しの夢に破れた取材班、それなら一層のこと、メルヘンの世界へどっぷり浸ろうではないか、ということで訪れることにした。上市町観光協会の方にガイドをお願いすることにして、一路、舞台となった民家を目指す。

携帯電話の電波も入らない、山深き地にあるこの民家は、もともと登山者の休憩所として家主の山崎氏が開放していた。それが映画監督の細田守氏の目に止まり、モデル家屋となったのだ。民家の中には、古き良き日本を彷彿させる応接セットや、この家を訪れた映画ファンの子供たちからの寄せ書きがたくさん飾られている。いずれも、この地での体験に対する感動や謝辞の言葉で埋まっていた。

子どもたちの純粋な気持ちがたくさん詰まった寄せ書き

自然というものに触れる機会の少なくなった現代で、こうしたシチュエーションに出会えることはめったにない。まして、それが純粋むくな子供たちにとっては、まさに感動の場面なのだろう。これまで富山の活力あるシーンを取材してきた我々だが、この民家に立ち寄ったことで、無邪気な笑顔を浮かべられたことだけは特筆しておきたい。

さて、すっかり汚れた心を浄化された取材班だが、この民家の麓にある日石寺でさらなる修験道を体験することにした。

日石寺の創建は神亀2年(725)行基が開いたのが始まりと伝えられている。境内背後にある三重の塔(上市町指定有形文化財)は弘化2年(1845)に建てられた富山県最古の三重の塔で、財政難だった為に外壁が造られず未完のまま現在に至る。

境内には不動明王をはじめとした、開祖以来の像が並ぶ

境内正面の山門(上市町指定有形文化財)は元禄年間に建てられたもので、三間一戸、入母屋、桟瓦葺き、楼門形式、上層部には高欄を回し、下層部の両側には仁王像が安置されている。また、ここでは写経や滝行を体験することができ、霊験あらたかな湧水には目の病を治す効能があるという。

本堂内部の石を掘って作られた不動明王像

さて、気になる滝行だが、日石寺では六本滝と呼ばれる滝で水に打たれる。六大(地、水、火、風、空、識)を型どった6つの蛇口から流れる滝に打たれることにより、六欲煩悩を洗い落とすことができると言われ、六本滝は心身を清めて不動尊を参拝するために造られ滝なのだ。参拝する際には、一度体験するのもいいだろう。

ホウ酸が含まれる滝の水は、目の病に効果があると言われている

山歩きを重ね、寺の境内でもその広さに圧倒された取材班。やはりここらで腹ごしらえをしなければガス欠を起こしそうだ。前日にご当地の人から入手した情報によれば、何でも日石寺のそばには、日本一美しい素麺があるという。ただ、このとき疑問に思ったことがある。美味しいという表現はグルメにマッチすると思うのだが、美しいとはいったいどういうことか。山門を出て周囲を見回すと、3軒の休憩処が目に止まる。いずれの店でも素麺を食べられるとのこと、今回は中でも老舗「旅館だんごや」にてチャレンジしてみることにした。

注文すること約5分。美人女将が運んできてくれたのは、ガラスの器に入った一杯の素麺。透き通るだし汁の中に、そっと浮かぶ麺の姿は、まさに「美しい」の一言に尽きる。なるほど、この盛り付け技法のことを言っていたのか、と感心しながら麺をすすると、だし汁の味付け具合といい麺の締まり具合といい申し分ないのだ。

冷水の中で、箸で束ねた素麺を抜き取るように盛り付けるのがコツ。素麺1杯500円

女将の話によると、周辺に湧き出る水が美味しいため、素麺のような粗食でもそのうま味を引き出せるということだった。実に品位のある美味しい素麺に合掌ならぬご馳走様をささげ、我々はこの地を後にしたのだった。

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