前回、前々回の豊島原稿を見ながら、小学生の息子との会話を思い出しました。家で新聞を読んでいると、見出しを見て「これ、何?」とか「どうして、逃げているの?」と聞かれることがよくあります。「住んでいる国が安全じゃなくなったからだよ」と言うと「ユレクみたいに?」と会話は続きます。
「ユレク」とは夏休みに息子と一緒に見た映画「ふたつの名前を持つ少年」の主人公。第二次世界大戦中のポーランドで育った8歳のユダヤ人少年です。ナチスのユダヤ人狩りから逃れた父親は、ユレクに「ユダヤ人であることを忘れ、ポーランド人として生きのびろ」と教えます。
父親に言われた通りに、ユダヤの名前をポーランド風に変え、ひとりきりで農村を渡り歩き、人々に助けられ、時に密告されて危険にさらされながら、ユレクは戦争終結まで生き延びました。実在の人物の体験を児童書にまとめたのは映画の原作『走れ、走って逃げろ』(岩波少年文庫)です。
息子と同年代の少年から見た戦争や人種迫害はどういうものか……。有事の時、子どもの身を守るために親は何ができるのか。夏に映画を見た時は、主にそういう観点でした。
難民問題から「自分たちは何ができるのか」を考える
ただ、紛争や難民について考えていくと「自分たちが追われる立場になった時、どうするか」だけではなく、「自分たちが彼・彼女のために何ができるか」という問題にも直面することになります。
映画には、まるで自分の子どものようにユレクに対して親切にしてくれるポーランド女性が出てきました。彼女の夫と息子たちはパルチザンとして森に入り、ナチスドイツと戦っています。ユレクがユダヤ人であることに気づいていますが、キリスト教徒としてのふるまい方を教えてくれます。
その映画中で、彼女の村が丸ごとドイツ軍に焼き払われるシーンが出てきます。ユレクをかくまったことも原因の一端なので、彼を助けず通報したら家財を失うことはなかったかもしれません。それでも彼女はユレクを地下室のさらに奥へ隠し通します。
「ママがもしこの女の人だったら、ユレクを助けることができただろうか。自分が殺されたかもしれない時に、知らない子どもを助けるのはすごいことだと思うよ。こういう人が、きっとたくさんいたんだろうね」。映画館を出て、平和な有楽町の街でドーナツを食べながら話したことを思い出します。
自分自身が危険にさらされながら、見ず知らずの子どもを助けることに比べたら、今の日本社会に難民を受け入れることは、もっとずっと容易なことでしょう。コストは物理的な危険ではなく、経済的なものだけだからです。
昨年、日本に難民認定申請をした人は5000人に上ります。うち、認定されたのはわずか11人。(法務省入国管理局調べ:http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri03_00103.html)
シリアや北アフリカから大量に流れ込んでくる難民の問題は、遠い欧州で起きていること。そんな風に思いがちですが、日本で働く私たちとも、決して無関係ではありません。経済はグローバル化し、ビジネスは簡単に国境を超えるようになっています。5年、10年先にあなたの同僚が「元難民の日本人」になっているかもしれません。
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著者プロフィール
●治部れんげ
豊島逸夫事務所副代表。 1974年生まれ。1997年、一橋大学法学部卒業。同年日経BP社入社。記者として、「日経ビジネス」「日経マネー」などの経済誌の企画、取材、執筆、編集に携わる。 2006年~2007年、フルブライト・ジャーナリスト・プログラムでアメリカ留学。ミシガン大学Center for the Education of Woman客員研究員として、アメリカ男性の家事育児分担と、それが妻のキャリアに与える影響について研究を行う。またツイッターでも情報発信している。
【連載】25歳のあなたへ。これからの貯”金”講座
25歳。仕事や私生活それぞれに悩み不安を抱える年齢ではないだろうか。そんな25歳のあなたへ、日本を代表するアナリスト・豊島逸夫とウーマノミクスの旗手・治部れんげがタッグを組んだ。経済と金融の最新動向をはじめ、キャリア・育児といった幅広い情報をお届けする特別連載。こちらから。