「予防歯科の真髄は歯周病予防である」と語り、日本の現状の予防歯科に対し警鐘を鳴らしている、大岡歯科医院代表の大岡洋医師。本質的な予防歯科のため、つまり虫歯予防だけでなく歯周病も同時に予防するための適切なホームケアの方法について教えていただきました。

  • 正しいブラッシングを理解していますか?(写真:マイナビニュース)

    正しいブラッシングを理解していますか?

「歯磨き」では効果なし

虫歯や歯周病を予防し、口の中を健康に保つために必要なのは、従来の"歯磨き"ではなく"ブラッシング"だと大岡氏は言います。

大岡氏「虫歯も歯周病も、口の中の汚れが発症の大きなカギ。つまり、汚れを効果的に取り除けば、虫歯も歯周病も予防できるわけです。しかし、歯の表面を磨き上げるイメージの従来の歯磨きに、歯周病の予防効果はありません。それはなぜか。実は、歯の表面にはあまり汚れはついてこないのです。

人間だけでなく歯のある生物には、自浄作用という機能が備わっています。歯の表面の膨らんだ部分は、唾液を介して舌や頬が自然に触れていることで、ある程度汚れが取れています。

しかし、歯と歯の間や歯と歯肉の境界部分は小さくくぼんでおり、頬や舌が入り込めず自浄作用が働きません。そこが、汚れが慢性的につきやすい場所であり、虫歯や歯周病になりやすい場所、つまり、『ブラッシングすべき場所』なのです」。

"シャカシャカ"ブラッシングはNG

では、どのようにブラッシングすれば虫歯や歯周病に効果的なのか、具体的な方法について大岡氏に教えていただきました。

大岡氏「ブラシの中央が歯肉の境目に当たるようにして、小刻みにゆっくりと揺らすように1~2mm程度の振り幅で動かします。

  • 適切なブラシの動かし方 提供:『「歯みがき」するから歯は抜ける』(現代書林)

    適切なブラシの動かし方 提供:『「歯みがき」するから歯は抜ける』(現代書林)

シャカシャカという音が鳴っていたら大振りしている証拠です。しっかりと歯と歯の間にブラシを入れて小さく揺らしていくと、ブラシの音はしません。

そして、注意したいのがブラッシング圧です。ブラシの毛束が少したわむ程度の弱い力、200~300gが適正な圧です。それ以上の強い力で乱暴にブラッシングし続けていくと、次第に歯が削れて歯肉も下がってしまい、歯周病の進行をより加速させてしまう可能性があります」。

加えて、ブラッシングの際には手鏡を使用し、歯磨き粉を使わないこともポイントだと大岡氏。

大岡氏「歯肉はとても敏感で、歯肉にブラシの毛が1本当たっているだけでも50本当たっているかのように感じてしまいます。口の感覚だけを頼りにしていると、ブラシの位置がずれていてもそれに気づかず、ブラシが歯肉に入っているつもりのまま習慣化する可能性があるのです。

手鏡を使い、目で確認しながらブラッシングすることが、自己流の『歯磨き』から『ブラッシング』にリセットする最良の方法です。毎日のことなので、洗面所の鏡を使ってのブラッシングは疲れてしまいますから、楽な姿勢で手鏡を見ながら行うのがおススメです。

  • 大岡氏が指導するブラシを当てる場所

    大岡氏が指導するブラシを当てる場所

また歯磨き粉は、その泡立ちが正確なブラシの位置を鏡で確認する際の妨げになる上、ミント風味の爽快感であたかも歯がキレイになったかのような錯覚を引き起こしやすいため、このブラッシング方法を行う際には使用しないことをおすすめしています」。

歯肉マッサージが歯周病を予防

大岡氏が推奨するこのブラッシング方法は、病気の原因である汚れを確実に除去できる事のほかに、歯肉のマッサージ効果もあるといいます。それが、従来の「歯磨き」との大きな違いであり、虫歯のみならず歯周病まで予防できる理由なのだそうです。

大岡氏「歯肉は毛細血管の集合体です。ブラッシングによって血管に適度な圧をかけること、つまりマッサージすることによって、血液循環が良くなり、歯肉が引き締まって、結果、歯周病予防や、歯周病の進行を止める対策になります。

ポイントはやはり、弱い力で繰り返すことです。肩こりをほぐすには、筋肉の血行を良くするように時間をかけてマッサージをすることが重要ですよね。歯肉も同じです。適切な圧で回数・時間をかけて、日常的にブラッシングすることが大事なのです」。

歯肉は老化しない

歯周病は、歯肉の血液循環が悪くなることによって、さまざまな老廃物が停滞して炎症を引き起こし、細菌が出す毒素によって骨が溶かされてしまう病気です。でも、歯肉は新陳代謝が活発なため、健康な状態を保てば、実は老化しない組織なのだと大岡氏は言います。

大岡氏「健康な状態の歯肉の新陳代謝は、皮膚の約3倍ともいわれています。実年齢に関係なく常に新しい細胞が生まれているのです。

ですから、高齢者でも、ちゃんと手入れをすれば20代の若々しい歯肉のままでいられますし、逆に、若い人でも手入れが悪ければ、年をとった人の歯肉になってしまいます。歯は年齢に関係なく、虫歯や歯周病が進行した結果失われるのであって、老化現象で失われるのではありません。

このブラッシング方法は、短時間に手軽にできることではありませんが、虫歯や歯周病の予防効果はグンと上がります。習慣化した歯ブラシの癖を変えるのは容易ではありません。だからこそ、少しでも早いうちに始めてほしいのです」。

取材協力: 大岡洋(おおおか・ひろし)

大岡歯科医院代表
1997年、東京歯科大学卒業。2002年、ハーバード大学歯学部・公衆衛生学部大学院(予防歯科学専攻)修了。日本人歯科医師として初めて予防歯科で理学修士(Master of Science)を取得。帰国後、2003年に大岡歯科医院(東京都・目黒診療所)の3代目として代表に就任。同年より東京歯科大学非常勤講師(歯科補綴学)として後進の指導にも従事。国際歯科学士会(ICD)理事。著書『「歯みがき」するから歯は抜ける』(現代書林)。