有機JASマークというものをご存知だろうか。日本では有機JASマークがない農産物・農産物加工食品に「有機」「オーガニック」といった名称の表示、もしくはこれと紛らわしい表示をすることは法律で禁止されている。
有機食品のJAS規格に適合した生産が行われていることを登録認定機関が検査し、その結果、認定された事業者のみが有機JASマークを貼ることができる。
有機JASマークを貼ることが許される有機認証農家は2010年3月31日現在、3,815戸(※1)。これは 全国の農家戸数のおよそ0.2%(※2)に満たない。認定されるための要求事項が非常に厳しいだけでなく、消費者理解が進まないところに寄るところが大きい。私が農家取材をしていた時にある農家の女性に言われたのが印象的だった。「まっすぐで太いダイコンと、有機栽培と銘打っていてもひょろひょろと元気がなさそうに見えるダイコン、どっちを買うかは明白でしょう。有機農業に転向したい思いもあるけど、売れない農作物を作るというのは気がひける」。
※1 農林水産省 県別有機認定事業者数(2010年3月31日現在)。なお、農家戸数には報告のあった個人農家とグループ構成員を積み上げた数。
※2 農林水産基本データ集より総農家戸数(252万戸、2008年次)を参考
生協のパルシステムでは、栽培基準というハード面、消費者心理というソフト面の両方から有機認証農家を増やす取り組みを続けている。ハード面では、JAS法の有機農産物、またはそれと同等の生産基準をクリアした農産物を「コア・フード」とし、その下に「エコ・チャレンジ」というパルシステム独自のブランドを設定。「コア・フード」の基準には満たないものの、ある一定基準に達した農作物を「エコ・チャレンジ」として認定することで、有機認証農家"予備軍"の拡大を目指している。
一方、ソフト面ではパルシステムの組合員向けに、有機農業の現場を視察するツアーなどを行うことで、消費者理解を深める取り組みを行ってきた。こうした取り組みが功を奏し、有機認証農家のうち、パルシステムと契約する農家は2009年3月末現在、579名に上る。
だが、そうした取り組みは地道に一歩一歩進んでいくもの。コア・フードの産地である有機農法ギルドの五十野農場長は「むしろ、有機農業もライフスタイルのひとつとして考えてもらえるようアピールしていかなければならない」と話す。たとえば、ギルドでは、赤い品種のトマト(品種:桃太郎)と同時に、黄色い皮が特徴の「桃太郎ゴールド」も生産している。
まだまだ生産量は少ないが、こうした取り組みが有機農業の将来を変えていくと五十野農場長は確信している。「黄色いトマトは、抗酸化作用に優れたリコピンを赤いトマトより効率よく摂取でき、機能性野菜として注目を浴びている。健康に気をつけている人のライフスタイルにあわせた有機農作物の提供を行っていくことが、有機農業の未来につながるんじゃないか」。
また、地域資源を活用した循環型農業のスタイルもギルドでは率先して取り入れてきた。霞ヶ浦・北浦に生息するヨシや霞ヶ浦の生態系を脅かす外来魚、パルシステムの産直青果や冷蔵品を仕分け・セット出荷するセットセンターから排出された野菜くず、ギルドの直売所などで出る卵の殻や食品副産物といったものを使用し、良質な堆肥を作り出す。その堆肥が有機野菜の栽培に使われていく。地域資源を活用しながら廃棄物削減、霞ヶ浦の生態系保全につながる。
また、五十野農場長は「有機農業への理解を促すには、何より農業が面白いことを伝えなければいけない」という。現在ギルドでは、ほうれん草などの野菜を使ったシフォンケーキを製造。農場近くの直売所で農作物と一緒に販売している。今後はトマトを使ったシフォンケーキも販売する予定だ。もちろん、農作物や商品だけではなく「有機農業を理解してもらえる楽しいイベントを展開することで、農業と観光を組み合わせたアグリツーリズムの起爆剤としていきたい」と五十野農場長。より多くの人に農業の魅力や食の大切さを伝える"食と農のテーマパーク"をつくっていくことが今の目標だという。
トマトから見えてきた有機農業の未来。それは、有機農業という厳しい現場をかいくぐってきたトマトと同様、力強く、希望に満ちたものだと期待したい。
※産地では黄色いトマトを作っていますが、パルシステムでは赤のトマトのみのお取扱いとなります。
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