ちょうキュートな団地!
夏至もすぎて水が恋しい季節だ。今回は池のある団地をご紹介だ。この団地すごいよ!
まるで川床のようなこの団地は、横浜市の竹山団地だ。広い団地全体のなかで「センター」と呼ばれる、商店街や銀行などがあるこの地区の棟だけ池に面している。
「川床団地」だというだけでもすばらしいが、なんといってもご覧の通り棟のデザインがちょうキュート!
この脚いいよね! 一目見てこの脚に惚れました。脚フェチです。団地の。この脚を見て思い出したのがかのル・コルビュジエがつくった団地「ユニテ・ダビタシオン」だ。
つまりこの団地はいわゆる「モダン建築」だ。まあ、団地そのものがモダンといえばモダンなんだけど。
棟のデザインだけでなく、随所にかわいらしいデザインのものがありまして。たとえば池の端にある階段。
商店街にある階段もよかった。
みなさんぜひ一度現地に見に行ってほしい。気が利いてる。凝ってる。すてきだ。住みたい。
1971年にできたこの団地、やはり有名な建築家の手によるものだった。緒形昭義さんという建築家で、藤沢労働会館など横浜市内にいくつかの作品を残している方だ。ちなみにこの竹山団地センターの設計で1972年度神奈川県下建築コンク-ル優秀賞を受賞している。
めくるめく調節池ワールドへ
さて、この池、何なのだろうか。今回の「ミステリー」はこの池についてだ。じつはこの池、人工のものなのだ。
竹山団地の全体。真ん中オレンジ色の線で囲った部分が池。その東岸に「川床団地」が建っている。(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・CKT20072・コース番号:C23/写真番号:19/撮影年月日:2007/04/26(平19)に加筆) |
同じ範囲の1971年の写真。完成間近といったところか。池の部分には水がないように見える。(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・MKT711X・コース番号:C13/写真番号:18/撮影年月日:1971/04/25(昭46)に加筆) |
さらにさかのぼって1966年。小さな流れがあったようだが、メインの川はむしろ団地の外周を流れている。池などは全く見当たらない。竹山団地の敷地は基本的に丘だ。(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・MKT668X・コース番号:C1/写真番号:6/撮影年月日:1966/07/28(昭41)に加筆) |
ご覧のように、かつてここに池はなかった。団地とあわせて作ったものだ。緒形昭義さんの「群研究所」ホームページによればこの人工池は
以前の地形が谷戸・水田であったことから、その環境が尊重され、開発に伴う雨水の調整機能も兼ね備えて造成された(「群研究所」ホームページより)
とのこと。おそらく当時は環境意識が高まった時代だったのだろう。しかしぼくが興味を惹かれるのは後半の「雨水の調整機能」のほうだ。じつは最近ぼくは「調節池」に夢中なのだ。
調節池ツアーしたい(誰が参加するんだ)
人間が地面に対して大規模に何かをすると水が問題になる。もともと山林や水田だったところを造成して宅地開発すると、水が出ちゃったり、保水機能が低下して雨が降ったときたいへんなことになる。特に団地は面的な開発なので如実だ。そこでそれらの水を貯めておく施設が必要になる。それが調整池というわけだ。(厳密には「調節池」「調整池」という区別があるが、ここではまとめて「調節池」と表記する)いわば水のバッファだ。
竹山団地周辺を地形図で見ると水面があらわれるのはここだけ。団地歩いてるときは起伏激しいなあと思ったけどこうして見るとかなり平坦にならされてることが分かる(国土地理院「基盤地図情報数値標高モデル5mメッシュ」を「SimpleDEMViewer」で表示したものをキャプチャ・加筆加工) |
この竹山団地の池と似たような機能をより大規模に果たすことで有名なのが首都圏外郭放水路だ。
これも大雨の際に周辺の河川が氾濫するのを防ぐために、一時的に地下の巨大なバッファに水を貯めるものだ。とてもおおざっぱにいうと竹山団地の池とこの「神殿」は同じだ。そう言われてみると竹山団地も神々しい(ぼくにとってたいていの団地は神々しいんですが)。川床団地ではなく神殿団地と呼ぼう。
これほど大規模な例でなくても、たとえば東京都心、麻布十番を流れる古川の地下にも調節池がある。
あるいは団地じゃないけど、丘を造成してできた集合住宅の目の前に調節池がある、という竹山団地と同じ例もある。
ちなみにこの平塚の集合住宅、東海道新幹線の車窓から見える、あの気になる三角屋根のカラフルな住宅街の横にある。上の写真の左奥に少し見えているのがそれだ。
他にもURが開発した巨大調節池「大相模調節池」というものもある。これとその周辺の再開発がいわゆる越谷レイクタウンだ。
巨大ショッピングモールで有名な越谷レイクタウン。この「レイク」も人工の調節池だ。(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・CKT20127・コース番号:C12/写真番号:68/撮影年月日:2013/02/11(平25)に加筆) |
1947年のこの周辺の写真。オレンジ色の線が現在の調節池。(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・USA-M399・コース番号:M399/写真番号:24/撮影年月日: 1947/08/11(昭22)に加筆) |
このエリアは昔から洪水に悩まされてきたというが、川の蛇行具合からそうなんだろうなーと思う。そしてこれだけ水田が広がっていたところが開発されて保水力を失っちゃたんだからそりゃあ調節池必要だよな! と思う。
恋しいような疎ましいような
とまあ、例を挙げていけばきりがない。たぶんみなさんの勤め先や家のそばにも学校やマンションの地下が小規模な調節池になっている物件があると思う。夏になると水が恋しいが、同時にゲリラ豪雨などもあって困りものでもある。あまり注目されることはないけど、じつはわれわれ日本人は水が溢れないように必死なのだ。そんな中、竹山団地はすてきな感じで水と折り合っている例だと思う。
池にはすごくたくさんのカメがいてびっくりした。住民の方に聞いたら「うちの息子が30年ぐらい前に縁日で買ってきたミドリガメたちを、飼えなくなったのでここに放したらいまやこんなに」とのこと。100匹を越えるそうだ。たぶん同じことをした家庭がたくさんあったのではないか。 |
<著者プロフィール>
大山顕
1972年生まれ。フォトグラファー・ライター。主な著書に『団地の見究』『工場萌え』『ジャンクション』。一般的に「悪い景観」とされるものが好物。デイリーポータルZで隔週金曜日に連載中。へんなイベント主催多数。Twitter: @sohsai
イラスト: 安海