元国税局職員 さんきゅう倉田です。好きな裁判官の言葉は「理由がない」です。

今回は“チェリーピッキング”について解説します。

人に何かを話すとき、相手に納得してもらいたい、敵対的な相手であれば黙らせたい、と思うことがあると思います。そんなときに、一部の人間が用いる詭弁、つまり誤った方便がチェリーピッキングです。簡単に言えば「いいとこどり」です。自分に有利な情報だけを抽出して、それによって導いたものが正しいことのように伝える手法です。

例えば、テレビで特定のタレントに対するアンケートを取り、製作者にとって都合の良い部分だけをVTRで放送し、アンケートの結果は一瞬だけ表を映して終わらせる、そんな場合も含まれます。

チェリーピッキングという言葉を知らなくとも、その手法を用いてくる人は大勢います。相手がその分野に明るくないのをいいことに、虚偽を交えて持論を展開してくる。さらに、疑われないために、統計的に正しいこともアピールする。そんなときチェリーピッキングが使われます。

他人と話しているときに「みんなそうだよ」「普通そうだよ」などと言われたことがありませんか。そこで終わらずに「みんなって誰?」などと聞くと、相手の周りにいる複数名の名前を出してそれが正しいことのように主張する。

そこには、悪意がある場合も、ない場合もあるでしょう。ぼくが実際に体験した事例をいくつか紹介します。

その日、ぼくは知人と「冷蔵庫に入れる食べ物以外の物」を考えていました。ぼくは「カメラのフィルム」を提案しましたが、知人は「湿布」だと言います。これは知らなんだ。ぼくは湿布の説明書きを読んだことがありませんでした。カメラのフィルムのように本来は冷蔵庫に入れるべきものだったなんて。勉強になります。さっそくスマートフォンを使って調べますが、そのような記述は出てきません。目の前の知人に確認します。

「これはあるある?」
「そうだよ」
「誰が言ってるの?」
「みんなだよ」
「みんなって誰?」
「地元のみんな」

このあたりで、ぼくはかなり疑っています。そして、ぼんやりとした返答をする友人に対し、苛立ち始めていました。

「具体的に誰?」
「地元の医者」
「地元の医者以外は?」
「家族」
「じゃあ、あるあるじゃなくて、その医者の考え方じゃないの?」
「でも、医者が言ってることだからな」
「医者が言ったから家族でやってるだけで、あるあるではないよね?」
「でも、医者が言ってるから」
「だから、他に誰がやってるの?」
「それはわからないけど、医者がやってるから」

チェリーピッキングも甚だしい。かかりつけの医者一人の発言から、それが一般化されたあるあるであると提案していたのです。このようなことをされると信頼関係を損ねてしまう。そのあと、チェリーピッキングはやめてほしいと話し、納得してもらったところで、知人は切り出してきます。

「途中で気づいたんだけど、湿布じゃなくて冷えピタだった。」

なかなか正直に言うことはできないものです。この点は、感服しました。また、マルチ商法の人たちが、勧誘のために芸能人の名前を出すこともあります。

「あのアイドルグループの◯◯もやってるんですよ」

ただ、残りの3万人くらいのタレントはやっていないわけで、何万人もいれば一人くらいはやっている人がいてもおかしくない(タレントの全体数は概算です)。そうやって、「科学の嘘」「統計の嘘」「数学の嘘」を使って、人を騙し、誑かし、操る。

世の中には、自分の主張を通すためならばチェリーピッキングを厭わない人がたくさんいます。もし、あなたの目の前の友好的でない人が自分の主張の後に、具体例を列挙したら、全体数いくつの中からそれを抽出したのか、今列挙されていないそれに該当しない数はどのくらいなのか確認して、相手が信用に値するか見極めてはどうでしょうか。

不動産の営業マン、車のディーラー、怪しい保険屋、うさんくさい投資家、さまざまな人が詭弁を用いています。

さんきゅう倉田

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さんきゅう倉田

さんきゅう倉田

芸人、ファイナンシャルプランナー。2007年、国税専門官試験に合格し東京国税局に入庁。100社以上の法人の税務調査を行ったのち、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに。ツイッターは こちら